育休パパの勇気は「伝染」する
山口慎太郎(2019)『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』,光文社新書
を読みました。
この本では、結婚、赤ちゃん、育休、イクメン、保育園、離婚など、家族にまつわる事柄について、さまざまなデータをもとに論じています。
子ども、家庭の話題は感情に流されがち。データに基づいて考えてみると…という視点が大切だと感じました。
家族の始まりは結婚。出会い、結婚、子育てに焦点を
・結婚のメリット
「費用の節約」→家賃、食費、光熱費の削減、
「分業の利益」→料理が得意なら2人分作る、相方が片付けや掃除・洗濯など、
「リスクの分かち合い」→片方がダウンしてもパートナーがフォローして家計を支えられる。
・高キャリアな女性は子育てによって暗黙のうちに失う収入が大きくなる。よって子を持ちたがらず、ひいては結婚もしたいと思わなくなる。
・子どもをもつことによる暗黙の費用の増大、「分業の利益」の減少が未婚率の上昇につながっている。
・6割の女性が夫に家事・育児の能力を求めている。
・出会いのきっかけは友人・兄弟姉妹からを通じてが30%、職場や仕事が28%、学校が11%
・マッチングアプリの分析によると、男性は女性に対して容姿を、女性は男性に対して経済力を重視する傾向。
・マッチングアプリならフラれてもあまり傷つかないというメリット。
・オフラインの出会いの方がより同質を求める傾向。
・韓国のマッチングアプリはガチ。
・働く女性の子は低出生体重児になりやすい傾向。
・母乳育児のメリット?胃腸炎や湿疹が減少。肥満、アレルギーや知能には影響せず。
・育児休業制度は雇用保障と給付金の二本柱。
・必ずしもお母さんが育児を担う必要はない。(子どもの育つ環境は重要であるが、お母さんでなくても良い)
・育児休業がキャリアの致命傷になることはない。なってしまうのは高度な専門職、営業職など
・育休は1年がベスト。育休1年は復帰後の母親の就業率を上げているが、3年はあまり増えず。2年目以降は給付金が途絶えて所得の落ち込み
・よって給付金のばら撒きよりも保育園の充実が必要。
・父親の1ヶ月の育休によって、復帰後も父親の育児に関わる時間は1日あたり20分増加、家事に関わる時間は15分増加。
・父親の育休取得によって、離婚率の低下。(出生5年後で23%→17%、10年後で33%→29%に)
・育休によって生活の変化への心構えができる。
・幼児教育(要は幼稚園、保育園)によって、高校卒業率、就業率、所得は向上。生活保護受給率、逮捕される回数は減少。→もっと社会補償の充実を!
・幼児教育によって、恵まれない貧しい家庭で育つ子どもの発達の向上。(平均的な家庭ではあまり効果なし)→所得の高い家庭には高い料金を課しつつも、認可保育所の供給を増やすべき。
・親の体罰によって、自分の葛藤や問題を暴力で解決して良いというメッセージになってしまう。
・離婚を防ぐよりも離婚後のフォローが大切。離婚後の共同親権の導入によって、男性の自殺の減少、離婚した母が養育費を受け取る確率の上昇。
などが述べられています。
育休経験のある私は、はやり育休、イクメンの章に関心が行きます。
考えたことを書き下します。
北欧のパパも尻込みしていた。
北欧では、男性の育児休業取得率が高いことはよく知られています。
およそ7割の父親が育児休業を取得するそうです。
勝手な想像で、諸外国では自身の人生、家庭を大切にする文化が根付いており、社会的なフォローも手厚いのだろうと思っておりました。
しかし…
この本では、ノルウェーの例が述べられていました。
2006年時点でおよそ7割の父親が育児休業を取得するノルウェーでも、かつては育児休業を取得する人は多くはなかった。
1993年に男女平等の観点から、育休42週のうち、4週を父親に割り振るという法律ができ、それまで取得率3%だった父親の育休が35%に伸びました。
この35%というのは、大幅な上昇ではありますが、現在の70%とは程遠い数字です。
1995年のノルウェーの政府白書では進まない育児休業取得に際して、
「父親たちは、会社や同僚から仕事に専念していないと見られることを心配しており、職場のこれまでのやり方と違ったことをすることに対して不安を抱いている」
という考えに至りました。
周りの目を気にして育休取得に気が引けるのは日本だけではなかったのです。
どのように育児休業取得が波及していったかについても述べられていました。
・1993年の法律改正で育児休業を取得したのは、ごく一部の勇気ある父親でした。その父親が同僚もしくは兄弟にいた場合、育児休業の取得者が増えていたのです。
・さらには、上司が育休を取っている場合は、部下の育休取得率は2.5倍になるというデータもあるそうです。
師がよく引用する
ロジャーズの普及化理論によると、
全体の2.5%はイノベーター、13.5%はアーリーアダプター、68%はマジョリティ、16%はラガートです。イノベーターの様子を伺って、アーリーアダプターに波及し、その様子をみてマジョリティに波及します。ラガートは最後まで導入しません。
ムーアは、アーリーアダプターからマジョリティへの波及に至るには大きな溝があり、その垣根をキャズムと呼んでいます。すなわち、キャズムを超えると一気に物事は普及します。
(こんなことを書いていると師に洗脳されているのだと実感します。)
1993年の法改正で育児休業を取得した父親はイノベーターなのでしょう。その様子を見て、育休取得しても安全だと感じたアーリーアダプターが取得し、マジョリティも取得…というようにキャズムが起きていったのでしょう。
日本でも法改正が進んでいます。キャズムを乗り越えていくためには、育休を取っても安全であることをイノベーターが証明し、アーリーアダプターに気づいてもらわなくてはいけません。
パパ先生こそ育休取得しませんか。
この本では、上司の育休取得が部下に波及していると述べられています。
学校において、子どもたちの「上司」にあたるのは、教師ではないでしょうか。
パパ先生が、育児休業を取得し、その姿を子どもたちに晒すことは、会社員が勇気を出して育児休業を取得するよりも、大きな効果を生み出す可能性があるのではないでしょうか。
2年前、私が育児休業に入る際に、全校生徒を前にして挨拶をする機会が与えられました。
たった1~2分の挨拶でしたが、細かなセリフは失念しましたが、全校生徒約200名に対して、
・男性育休の在り方の是非は取得しないとわからない。
・5年、10年後にとれるものではない。今しかない。
・父親としての修行を積み、自分の家庭を大切にしたい。
・皆さんが家庭をもったとき、参考にしてほしい。
という旨を語りました。
もちろん全員に影響するわけではありませんし、聞いていない人もいるだろうと思います。
しかし、中には将来参考にしてくれる生徒もいてくれるだろうとの思いがありました。
何回でも語りますが、
目の前の大人が幸せであることが、子どもたちが将来幸せになることにつながります。
だから、パパ先生こそ、育児休業を取得してほしいと願っています。
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