《二十一. 狂気の悪役、ライジ・サノ 》
『ママ』の公開と同じ年、雷次は再び俳優としてアメリカ映画に出演している。
製作サイドは『魔銃変』で雷次に関心を持ち、彼が『サムライロイド』でアメリカに進出したことを受けて、オファーを出したのだ。
作品は、タフな刑事が殺し屋に同僚を殺され、怒りに燃えて追い掛けるというハードなアクション映画だ。
監督はロバート・アルドリッチ。『北国の帝王』や『ロンゲスト・ヤード』など、骨太な映画を撮ることで知られる大物である。
主人公の刑事を演じたのは、『フレンチ・コネクション』『スケアクロウ』のジーン・ハックマン。共演者はTVシリーズ『刑事コジャック』のテリー・サヴァラス、『ポセイドン・アドベンチャー』『ニッケルオデオン』のステラ・スティーヴンス、『砂漠の流れ者』『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』のL・Q・ジョーンズ、『荒野のストレンジャー』『パニック・イン・スタジアム』のミッチェル・ライアン、『狼たちの午後』『未知との遭遇』のランス・ヘンリクセンといった面々だった。
この作品で雷次は、主人公が追い掛ける東洋の殺し屋ハン(国籍は不明だが、香港をイメージしているようだ)を演じた。
ハンという役は本来、それほど大きな役ではなかった。最初の脚本では、途中で殺されて退場することになっていた。
しかし、カメラテストでの雷次を見たロバート・アルドリッチが、その強烈な存在感に惚れ込み、もっと大きな扱いに変更したのだ。
その期待に応え、雷次はジーン・ハックマンを相手にしても臆することなく、堂々たる芝居を見せた。凄味と風格がある一方で幼児性を思わせる部分もあり、冷徹でありながらも狂気を感じさせる殺し屋という、個性の強いキャラクターを作り上げた。
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『ブラッド・アンド・バレット』(日本語題『獄悪人』)
〈 あらすじ 〉
東洋の殺し屋ハン(ライジ・サノ)が、アメリカに入国した。収監されている麻薬組織のボス、ネスター・ハリデイ(テリー・サヴァラス)が、自分を刑務所へ送った面々に復讐するため呼び寄せたのだ。
ハンはアメリカの裏社会でも「静かなる狂人」として名前が轟いている人物だ。彼は手始めに運び屋のボブ(ランス・ヘンリクセン)を惨殺し、その死体を晒し者にした。ネスターをムショ送りにした連中に対し、宣戦布告を行ったのだ。
シカゴ警察の刑事バズ・カーシュナー(ジーン・ハックマン)は、同僚のチャーリー(ミッチェル・ライアン)をハンに殺されて怒りに燃えた。バズはネスターを尋問して殺し屋の居場所を聞き出そうとするが、のらりくらりとかわされた。
バズはネスターの愛人ドット(ステラ・スティーヴンス)に会い、話を聞く。だが、そのドットもハンの襲撃を受けた。バズはハンを見つけて追跡するが、まんまと逃げられてしまった。
警察は、次に狙われるのがネスターの組織を引き継いだ幹部ニール・ブレイク(L・Q・ジョーンズ)だと推察した。バズはニールの警護に当たった。しかし警察と組織の厳重な警備網をかいくぐり、ハンはニールを殺害した……。
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1978年9月、『ブラッド・アンド・バレット』は全米で公開された。
『サムライロイド』とは違ってメジャー会社の製作による大規模公開の映画であり、「ライジ・サノ」の俳優としての知名度は一気に高まった。
単に知名度が上がっただけでない。
「『死の接吻』のリチャード・ウィドマークや、『恐怖の岬』のロバート・ミッチャムに匹敵する、強烈な悪役ぶりだ」
という批評家の絶賛コメントが新聞に出るほど、その芝居は高く評価された。
『ブラッド・アンド・バレット』の翌年、またも雷次はアメリカ映画で悪役を演じることになった。
監督は『ダーティハリー』『突破口!』のドン・シーゲル。クリント・イーストウッドの師匠的存在としても知られる、アクション映画の職人である。
ドン・シーゲルは『ブラッド・アンド・バレット』における雷次の演技を
「まるで『ダーティハリー』のアンディー・ロビンソン(ダーティハリーと対峙する凶悪犯スコーピオ・キラー役)のようなインパクトだ」
と絶賛した。
作品は裏社会の抗争を描く暴力映画で、雷次は日本から来たヤクザ役だった。二つの組織の抗争に関与し、キーパーソンとなるキャラクターだ。
主演は『荒野の七人』『戦争のはらわた』のジェームズ・コバーン。共演は『十二人の怒れる男』『エクソシスト』のリー・J・コッブ、『007/死ぬのは奴らだ』『特攻サンダーボルト作戦』のヤフェット・コットー、『マンハッタン無宿』『コンボイ』のシーモア・カッセル、『タワーリング・インフェルノ』『カサンドラ・クロス』のO・J・シンプソン、『怪盗軍団』『ブレーキング・ポイント』のロバート・カルプといった面々である。
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『デッドリー・ダンス』(日本語題『悪党どもの宴』)
〈 あらすじ 〉
サンフランシスコでは長きに渡ってロニー・ガッチョ(リー・J・コッブ)率いる白人ギャング団が裏社会を取り仕切っていたが、ベン・パーソンズ(ヤフェット・コットー)が率いる新興勢力の黒人ギャング団が勢力を伸ばし、両組織の対立が高まっていた。白人ギャング団の構成員ミッチ・ストライカー(ジェームズ・コバーン)は、そんな状況を危惧していた。仲間のガストン・ルーベン(シーモア・カッセル)は、黒人ギャング団への攻撃的な態度を剥き出しにした。
そんな状況の中、日本からホンダ(ライジ・サノ)というヤクザが街にやって来た。黒人ギャング団の一人がちょっかいを出し、あっけなく叩きのめされた。武闘派のホンダは、所属する暴力団から厄介者扱いされていた。親分は、アメリカに渡った愛人の息子アキラの警護役を命じ、ホンダを体よく追い払った。だが、自分が厄介払いされたことを、ホンダは分かっていなかった。
アキラはヤクに溺れているドラ息子だったが、ホンダは忠実に親分の指令を遂行しようとする。だが、ホンダを無視して遊びに出掛けたアキラが、何者かに殺害された。ホンダは、犯人が白人ギャング団の中にいるという情報を掴んだ。
パーソンズはホンダを懐柔し、抗争の助っ人として勧誘した。ケンジを殺した犯人への報復に燃えるホンダは、その誘いに乗った。ホンダは白人ギャング団の数名を殺害し、幹部のバート・ホジソン(ロバート・カルプ)を脅して犯人がミッチだと聞き出した。
実は、アキラ殺しの犯人はバートだった。麻薬が絡んだ些細なトラブルから、アキラを始末したのだ。ホンダに脅されたバートは、助かりたい一心で、かねてから嫌っていたミッチの名前を出したのだった。
ホンダはバートの証言が真実だと思い込んだ。彼はバートを殺し、ミッチを付け狙うようになった。急襲を受けたミッチは軽傷を負っただけで済んだが、巻き込まれたガストンが命を落とした。
そんな中、利害の一致したガッチョとパーソンズが手を組むという急展開があった。しかし両組織のボスが休戦協定を結んでも、ホンダの暴走は止まらなかった。ホンダは自分の行動を妨害したパーソンズと子分のカール・マッコイ(O・J・シンプソン)を殺害し、ミッチの命を執拗に狙う……。
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あらすじを読めば分かるかもしれないが、ほとんど雷次がメインのような扱いになっている。
実際、雷次は完全に主演のジェームズ・コバーンを食っていた。
1979年11月、『デッドリー・ダンス』は全米で公開され、雷次の俳優としての知名度はさらに上昇した。
しかし、だからと言って、雷次は決して監督業を忘れていたわけではない。
この翌年、雷次はアメリカで三本目となる監督作を送り出す。