ホテルの窓
とある夜。駅のホームで電車を待つ。駅に隣接してビジネスホテルが立っている。
窓に人影が見えた。縁側での寛ぎを思わせるラフな姿の男性。あちらは一人、こちらは大勢。体の向きからしても、私を見てはいない。それでも、何となくこそばゆい。
朝には、窓辺に座っている人が見えた。
急いでいる感じはない。どことなくゆったり優雅な雰囲気。これはひょっとして憧れのホカンス(ホテルバカンス)かしら。
マンションや一軒家でも、窓からうっかり中が見えることがある。が、ホテルの方が気まずさ、罪悪感が薄い。自宅は「その人そのもの」だけど、ホテルはあくまで外出先だから。その人の本質、秘密がオープンになることはなかろう、と。
自宅の外で、入浴と寝起きという生活・人生が営まれるホテルは、何とも不可思議な装置だと思う。泊まった時の、寛ぎたいけど緊張する、楽しみたいけど疲れを取りたい、そんな矛盾がチェックアウトまで無くなることは無い。
窓辺に立っていた影は、そんな混沌とは無縁に見えた。