#27 なんだ、ちゃんと家族じゃん
家族は似た者同士
Sに依頼されて、家族面談に同席することになった。
言った、言わない、などの揉め事にならないようにしたいから、一緒に話を聞いてほしい、との理由。
妹さんからもお願いされた。
Sは事前に確認事項を書面にしていた。
親も妹も質問に対して回りくどかったり、しつこかったりするから、とのこと。
私からすれば、貴方も負けず劣らずしつこいよ。
自分で話題終了と宣言しといて、数十秒後には同じ話しをするんだから。
書き方について確認してほしいと言うのだが、言い方は威圧的なのがS。
書面の書き方よりも、優しい言い方や感情コントロールをしてほしいと伝えた。
即座に不機嫌。
S「相手の出方次第」「一応努力します」
相手がどう出ようが感情をコントロールする術は身につけて欲しいものである。
妹さんへ、面談に向けて心の準備をしておきたいと言われていたので、
事前に私からメールで連絡。
本人がアパートを解約したこと、親の自宅の売却に否定的なこと、売却するにしても買い手が良い人なら職業は問わないことなどを伝えた。
それに加えて、Sが威圧的態度を取る可能性が高いので、そこはまともに受け止めないでほしいと伝えた。
一番の心構えは、メンタル的なところだろう。
妹さんからは、Sの話を聞く姿勢で臨むつもりでいたので、今回は敢えて話さないとのこと。
親もそのつもりでいるらしい。
話し合いの末
いざ面談が始まった。
私とS、親と妹が対面で座り、「お願いします。」と双方一礼する。
家族なのに緊張感があった。
Sが質問事項を印刷しており、親と妹へ書面を渡す。
Sが先に読ませてほしいと言う話にかぶせて、
親も、手紙を書いてきたから先に読ませてほしいと喋ってきたが、Sが少し口調を強めたので、譲った。
実家を売却することについて、Sは消極的だったので、なぜ売却したがっているのかを質問した。
立地条件も良く、運転免許証を返納しても徒歩で買い物が出来る環境だからだ。
親としては管理が大変と私に話していたが、詳細は聞いていなかった。
住居の一部を貸しており、そこが事業をしている。人の出入りが多く、その度に挨拶もするし、従業員が不動産を仲介せずに大家である親に色々確認してくるなど精神的に負担になっているとのこと。
それに加えて、経費等の管理も必要。年金と家賃収入での生活なので、税金もその中から工面しなければいけないし、税理士へ依頼するのも金銭的に負担だったので、なるべく自分でやれる範囲を続けていたが、歳を重ねるごとに負担になっている。捨てたくても保管しておかなければいけない書類や領収書で家が埋まる。それも嫌だったとのこと。
本当は、静かに余生を過ごしたいと思っていたが、この場所ではそうもいかない、というのが親の本音だった。
Sは売却理由を聞いて、考えていた質問の半分程が不要になった。
加えて、Sの口調がずいぶん柔らかくなった。
親と笑って会話するSを初めて見た。
それから親も緊張が解けたのか、質問事項が途中だが、手紙を読ませてほしいと言った。
Sも応じた。
手紙には、私に対してのお礼、Sを苦しめて申し訳ないという謝罪、妹と助け合っていってほしいという依頼の内容だった。
Sがずっと心に刺さっていた言葉に対しても、親は言っていないが、そういう受け取り方をさせてしまった状況はあったかと思う、と一部認めた。
それで、Sもようやく親を許した。
でもSからの謝罪はなかった。
あんただって、親を苦しめていたんだから謝罪しなさいよ、と言いたかったが、耐える。
私は同席しているだけ、と言い聞かせる。
穏やかな時間
一通り質問したいことを聞き終え、少しはSも気持ちが晴れたのか、家族の思い出話をする場面や、今後の状況などを話し合っていた。
私は、言った、言わない、という状況を避けるために同席していたので、皆が会話している内容を要約して、パソコンに打ち込んでいた。
話した事を忘れていたり、聞き間違いから誤解が生じる。
それを都合よく解釈していまうのが人間。
なので文字にしておくことが大事だと思った。
ボイスレコーダーの方が正確だとも考えていたのに、すっかり忘れていた。
しかし、面談は3時間に及んだ。
改めて聞き返す気になれないなと思ったので、結果オーライ。
面談終了後、Sはだいぶ疲れていた。
Sは私の言う事を守って感情コントロールしてくれていた。
普段に比べ穏和だった。
日頃やり慣れていない事をしたS。
この時ばかりは、ありがとうと礼を言った。
その後、アパートを解約した際の契約金の返済を忘れていたので、Sが一人で実家に行き、30分ほど帰ってこなかった。
なんだ、ちゃんと家族じゃん。
そう思った。
帰宅したら
S「やっぱしつこい、あの2人」と苦笑しながら言うS。
私「お前もな」と笑って返す。
S「そうかもね」
普段なら、しつこいと言うと不機嫌になるSが、この日は笑顔だった。