舞台「黒子のバスケ」と交差する時間
舞台「黒子のバスケ」THE ENCOUNTERは、私が原作にも、2.5次元にも触れる前に公演された作品である。やはり、観るべき時期というのはあるのだろう。私にとって今日が観るべき日であり、触れるべき日だったのだと思う。
なぜ、大仰にもそんなことを言うかというと、私はスポーツものがどうしても苦手だったのだ。私の言い分を例えるならこうだ。
「初心者がインターハイで優勝とかありえないだろ!?」
スポーツものでは良くあることだ。サクセスストーリーは大きい方がきっといい。あり得ない非日常、現実離れしたキャラクターの体躯・技。「んなわけあるか!!」とつっこんでいるうちにキャラクターの心情が分からなくなってしまう。作品が悪いのではない。完璧に私がその作品に適応できないだけだ。色々薦められて読んだり観たりしてきたが、どれもなんとなく共感は出来なかった。それは私自身がスポーツをしていて、現実を知りすぎてしまっていたから、という要因も一部あるかもしれない。
そんな時期が長く続いたが、私もスポーツを辞め、ただの一般人になってそこそこ長い時間が経った。先の記事で書いたが、推しの出演作品を全部集めた結果、私の手元に舞台「黒子のバスケ」が来たのである。
端的に言えば、素直に感動した。あり得ない、と思わせない世界がそこにはあった。高一でこんな身体能力…とか思う暇がないほど、その世界には説得力があった。光が際立つには陰がいる。影が濃いほど、光が輝くほど両者は強く結びつき、世界を照らし出す。徹底した陰と光の両者が、強敵からの敗北をきっかけに自分自身のスキルアップを目指していく…主人公が負けて終わる作品は珍しいと思う。でもこの敗北は未来を繋ぐ必須要素であってほの暗さは薄い。そうか、こうやって失敗や負けをバネにしていけば良いのか、と納得するほどであった。
鑑賞しながら、いつから私は勝負が終わった後のことを考えて取り組むようになったのだろう、と思った。とかく、負けたあとの処理を憂いながら、本当はワクワクするはずの相手との一戦を作業にしてしまう。最近はその相手が自分であることが多い。負けたら嫌だし、失敗したら面倒。相手が自分だからドローでいいや、が通ってしまう。自分とのドローは何も生まないことを痛いほど知っているのに。相手に対して真摯が過ぎるほどの全力を向ける選手達を羨ましく思った。でも、別に、自分がそうなれないわけではない。その熱さを馬鹿にするほど子どもではなくなっていた。熱くなっちゃって、と言うのは簡単だが、熱くなれる強さを知っている。私だって、バスケじゃないけど、スポーツじゃないけど、好きなことに取り組んでいる真っ最中だ。熱くなって何が悪い。したいことに全力を出せば良いじゃないか。拍手に消えていく選手達を見送りながら、私は私の戦いの中で走ってみようと思うようになっていた。そうか、スポーツものはこうやって楽しむことも出来るのか。スポーツものを誤解していた。素晴らしい作品に携わっている全ての人に感謝である。そして、出会わせてくれた推しにも。
さて、真面目な感想はここまでにして、特典ディスクの勝手な見所紹介をして終わりにしたい。本当に体育館でバスケの練習をする風景が収められている。練習の最後、チーム毎に10点先取ゲームをしている。ここだ。ぜひここを観て欲しい。皆経験者なの?と思うようなゲームが繰り広げられる。チーム秀徳はフィジカルが強い。海常はスタイリッシュなスタイルを表現している。桐皇は衣装を着ていなくてもなんか強そうな雰囲気を醸しているし、誠凛は新生チーム感満載だ。役じゃないんだろうけど、出るもんだな~~と感心してしまった(超上から目線なのはご了承いただきたい)。特典ディスクはすごいボリュームなので、時間に余裕を持って観ていただきたい。本編と特典で半日はつぶれる。
舞台「黒子のバスケ」、これも劇場で観たかった。もう少し早く出会っていれば、というのはいつも思うことであり、願っても叶わないことだ。叶わないけれど、こうやって後悔するたびに、また良い作品に最適なタイミングで出会えたな、と思うのも本当だ。次は是非、リアルタイムで出会いたいものである。