【365日のわたしたち。】 2022年4月25日( 月)
月曜日は憂鬱だ。
これから始まる灰色の5日間を象徴するかのような曇り空に、ぱらつく雨。
電車は湿気で余計にムワムワするし。
湿気たスーツや服って、なぜあんなに独特の匂いを発するのだろうか。
2ヶ月くらい前の雨の日も、俺は同じようなことを考えながら電車に乗った。
その時に、あの人を見つけたんだ。
一人、空気が違う人。
雰囲気って意味でもそうだけど、本当にあの人の周りだけ空気清浄機が置かれているんじゃないかってくらい、周りの空気を澄ませている人。
湿気なんて、熱気なんて、あの人の周りには存在しない。
文庫本を片手で持って、もう片方の腕で吊り革を握る。
時々、ページを捲るために吊り革から手を離す。
そしてまた戻す。
背筋はピッと伸びていて、周りの人に押されても、ぶつかられても、一切表情が変わらない。
そして、俺よりもきっと先の駅で降りるのだろう。
俺はあの人が電車を降りるところを見れずに、いつも少し名残惜しい気持ちになりながら、電車を降りることになるのだ。
別に恋愛感情を抱いたとかではなく、なんというのか、憧れたのだ。
周りとは違う自分だけの空間・時間を持ち合わせていて、それを他人に汚されることも揺るがされることもない。
そんなあの人のブレない軸のようなものが外側からも感じられて、なんだか自分もあんな風になりたいな、なんて、おこがましくも思ってしまったり。
それから2ヶ月間、あの人を電車の中に探すようになった。
前まではバラバラに乗っていた車両も、あの人が乗っているであろう3両目を積極的に選ぶようにした。
いた。
毎朝、その人を見つけると嬉しくなる。
今日は月曜日で、雨が降っている上に気温も高い。
なのに、あの人はいつもと変わらない涼しい顔でそこに立っていた。
別に話しかける気もないし、友達になりたいなんて気持ちもさらさらない。
ただ、あの人が俺と同じように今日も仕事に向かっている。
それがなんだか無性に励みになるのだ。
月曜日だからって落ち込むことはない。
雨が降っているからって落ち込むことはない。
今日は昨日と変わらず、明日とも変わらない、ただの一日です。
そう言われているような気がする。
電車の中は相変わらずムワムワしている。
そして俺は今日も、あの人が電車を降りる姿を見れずに、電車を後にするのだった。