【365日のわたしたち。】 2022年4月3日(日)
小雨が降り始めた東京は、なんだかいつもよりより冷たい空気を纏っていた。
3月末に引っ越してきた東京は、どこもかしこも人がいっぱいで、おしゃれな人がたくさんいて、テレビで見たお店が目の前にあって、おしゃれな雑貨屋さんや服屋さんがひしめき合っていて、心が踊った。
ずっと地方の田舎で18年間過ごしてきた私にとって、東京はまさに聖地だった。
ネットで見つけた「欲しいもの」も、少し探せば、電車で行ける距離に取り扱っている店舗が見つかるし、道を歩いているだだけで気分が上がるなんてこと、あの町ではなかった。
楽しい、楽しい、楽しい!!!!
爆発する好奇心と興奮を私は抑えきれず、原宿、渋谷、銀座と、聞いたことがある街に毎日繰り出していた。
もちろん買えるものなんてほとんどないけれど、見ているだけでテンションが上がるからいいのだ。
そして2週間経った今。
小雨が降る東京の街の、ある狭いアパートマンションの一室で、私は一人なんだかぽっかりした心を持て余していた。
今日は雨だし、外に出るのも憚られるし、なんだかこれまでの2週間とは打って変わってそんな気分じゃないな、と感じた。
あの浮かれた気持ちはどこに行ってしまったんだろうというくらい、今日は気持ちが上がらない。
ピンポーン。
この家に来て久しぶりにインターホンがなる音を聞いた。
出るのもめんどくさいけど、大事な用件だったら後回しにするのもめんどくさい。
モニターで応答する。
「はーい」
「あ、宅急便でーす」
と雨の中走ってきたんだろうなと思われる、少し濡れたお兄さんが返事した。
チェーンを外して玄関のドアを開ける。
「こちらお荷物でーす。印鑑は大丈夫なんで」
と、私の脇をすり抜けて荷物を玄関の内側に置いたお兄さんは、颯爽と走り去っていった。
荷物は、実家からだった。
大きなみかんの段ボールがニコイチになったその荷物は、持ち上げようにも重くてしんどい。
しょうがないから、玄関先でバリバリとカッターで開けていく。
中には10kgのお米と、レトルトカレーなどの食品、お父さんが庭で育てていた野菜が詰め込まれていた。
荷物の脇に、白い封筒を見つけた。
開けてみると、それはお母さんからの手紙だった。
「元気にしていますか?少し寒さが戻ってきているので、体調に気をつけて過ごしてくださいね。東京はこっちの街と違うこともあるから、窓と玄関の戸締りはしっかりしてね。また東京や学校生活のこと聞くのを楽しみにしています。」
玄関に座って読んだ手紙は、私の胸をキュウっと締め付けた。
送られてきた野菜やお米が、なんだかとても温かく、とても貴重なものに見えたのが、心苦しかった。
あの町にいた時は感じたことがなかった感情だった。