【365日のわたしたち。】 2022年5月9日(月)
隣の女性が泣いている。
泣きながら電話をしている。
月曜日の朝、GW明けの憂鬱な日であることは間違いないが、泣くほどのことがある月曜日なんて、本当に憂鬱でしかないだろう。
かわいそうに。
所々、電話の相手に起こった出来事を説明している声が聞こえるが、全てが聞こえるわけではない。
彼女が何に悲しみ、ショックを受けているのかはわからない。
しばらくすると、彼女は電話を終えた。
詰まった鼻をズズッと啜り、テーブルの上のケーキを食べ始めた。
一口食べては、外の景色を眺めながらぼーっとしている。
電話の相手に感情を素直に吐き出して、少し放心状態なのだろう。
彼女に、その気持ちを吐露する相手がいたことが救いだと思う。
カフェをぐるっと見渡すと、黙々と勉強をする学生、友人とお茶をするグループ、仕事をするフリーランスらしき人。
たくさんの人が、同じカフェに集っている。
彼女のように泣いたりはしていないからわからないけれど、彼らも様々な感情を抱いているのだろう。
喜び、楽しさ、悲しみ、集中、怒り。
俺の目からは風景にしか見えないその景色の中の人たちは、一人一人感情に心と頭を震わせている。
こんなことを冷静に書いている俺でさえも、そうなのだ。
そう。
この後、取引先に怒鳴られに行くんだ。
コーヒー片手に携帯をいじっている俺が、まさかこの後怒られに行くなんて、誰も想像していないだろう。
そんなものだよ。
人生なんて。
自分以外の人の抱えているものなんて、わからないものなんだよ。
だから、絶望する必要はないよ。
そう自分に言い聞かせてるんだ。
泣いていた彼女は、赤くなった目を鏡で確認すると、さっと席を立ち、人混みの中に消えていったのだった。