
Photo by
rulaladela
【365日のわたしたち。】 2022年4月26日( 火)
入選の連絡が来た。
彼女を描いたその絵は、自分の中でも最高傑作で、その入選の連絡に驚きはしつつも、納得だった。
その絵を完成させたのは、去年の今頃だっただろう。
毎日何時間と同じポーズをしてもらい、彼女をキャンバスにトレースしていく。
美しい曲線美。
かすかな震えから感じられる生命。
その全てを、このキャンバスに写し取りたかった。
あぁでもない。
こうでもない。
そう頭を悩ませながら、キャンバスに色をのせていく。
次第に、白い布の上の「彼女」に命が宿りだす。
永遠に微笑み続ける「彼女」に、俺の心もどんどんと飲み込まれていく。
「あなたは、私じゃなくてあの絵に恋しているのね。」
そう言った彼女の言葉は、まさに的を得ていた。
最初からそうだったわけではないのだ。
ただ、徐々に徐々に、彼女に色を、艶を、光を重ねていくうちに、俺の中で「彼女」は俺のものになっていったのだ。
実物ではない、布の上だけに存在する「彼女」。
俺が愛おしいのは、そんな「彼女」だった。
彼女の言葉を否定も肯定もせず、沈黙を貫いた俺に呆れたように、彼女は部屋を出ていった。
これまで何度も彼女をモチーフに絵を描いてきたから、部屋の中には「彼女」がたくさんいた。
もちろん未完成な子が多いけれど。
これから俺が作り上げてあげればいいだけだ。
だから寂しくないさ。
俺の心は満たされてる。