【365日のわたしたち。】 2022年3月14日(月)

「今日はホワイトデー。男性の皆さんはお返しをきちんと準備されていますか?」

朝のニュースのアナウンサーが、にこやかに、そして何か強かさを感じる表情で話してくる。

「ホワイトデーのお返しに女性の方が期待するもの、1位はスイーツ、2位はディナー、3位はアクセサリーという調査結果が出ていますねぇ。この機会に、日頃の感謝の気持ちをカタチにしてみるのもいいかもしれませんね。」


感謝をカタチに...。


バレンタインデーにもらったチョコレートたちを思い出す。

大箱のギフトボックスを目の前に出され、
「部長もどうぞ。バレンタインデーのお菓子です。」と、クッキー1枚やチロルチョコをデスクに置いていく若手の女性社員たちの姿を思い出す。

あっちもあっちで大変なんだろうなぁ...と同情する。


こんな風習は学生までであれば甘酸っぱい思い出で済むのに、社会人になると途端に忖度や社交辞令に塗れた闇深い儀式に見えてしまうのは、なんとも悲しいことだ。




「ねぇ。これ、ホワイトデーのお返しね。ちゃんと配ってね。」

そう言って、妻は私の仕事鞄の横に、小綺麗な紙袋を置いた。
もうこの光景は毎年のことだ。


結婚してから、妻は私にバレンタインデーをくれたことはない。

私が会社でもらってきたお菓子を一緒につまみながら過ごすのが、我が家のバレンタインデーと化している。

そしてホワイトデーには、いつも忘れてしまう私に代わって、妻がキチンとお返しの品を用意してくれるのだ。

チロルチョコの何倍の額かわからないおしゃれなデパ地下のスイーツを、もらった数分+オフィス用を計算して揃えてくれる。



「それじゃあ、行ってくるよ。」

「気をつけてね〜。配るの忘れないでね。」


家を出て、カサカサと音を立てる紙袋に目線をやる。



感謝の気持ちをカタチにすべきは、むしろこっちだよなぁ。



そう心の中で呟き、何ができるだろうかと妻の顔を思い浮かべながら、
徒歩8分の駅まで向かうのだった。






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