【365日のわたしたち。】 2022年4月17日( 日)
「じゃあ、今日はどこか遠くに行こう。」
朝、いきなりそう言い出したパパは、私を外に連れ出した。
そして少し歩いたところで、レンタカーってやつを借りていた。
なんか書類に色々書き込んでいるパパの姿を後ろから見ながら、慣れないお店の空気にちょっとドキドキした。
うちのパパは車を持っていないから、あんまり車でお出かけしたことない。
友達が、パパが車で送り迎えしてくれるって話を聞いて、羨ましいと思うこともあった。
だから、パパが車を運転して、私が車の助手席に乗って、っていうのは、私の中で少し憧れだった。
「はい、じゃあ助手席乗って。シートベルトはつけなきゃだめだぞ。」
そう言ってパパは運転席に乗り込んだ。
ガチャンとシートベルトがはまる感触も慣れてなくて、でも、なんだか気持ちいいなと思った。
そこからパパは、カチカチと音を出しながら、車を右にグイッと動かした。
広い道路をすいすいと進んでいく車。
なんだかジェットコースターに乗った様な気分。
道を歩く人も、自転車も、どんどんと追い抜いていく。
なんだか私は特別な人間かもしれない、とワクワクした。
パパは運転しながら、私に話しかけてきた。
「まずはお昼ご飯だよな。久しぶりにマック食べちゃうか!」
「うん、行く!」
そう答えた私の返事を聞いて、よーし、と言いながら、パパは赤と黄色の看板を見つけると、そこの駐車場へ流れるように入っていった。
パパは、ドライブスルーという看板が置かれた方へゆっくりと進んでいく。
そして、メニュー表が貼られた看板のようなものの前で車を停めた。
パパが窓を開けると、メニュー表の方から勢いよく「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします」と声が聞こえてびっくりした。
「チーズバーガーセットでいいか?キッズセットもあるけど。」
「チーズバーガーセットでいい!」
パパは、チーズバーガーセットとビッグマックセットを一つずつ、とマイクに向かって話しかけ、またゆっくりと車を進めた。
進めた先では、お姉さんが窓から顔を出していた。
「ありがとうございます〜!」
とハンバーガーの入った袋を渡してくれた。
ドライブスルーってこんな仕組みだったんだ。
私は初めての体験に、またドキドキしてしまった。
ハンバーガーは、この先の海に座って食べようということなった。
太ももの上に置かれたハンバーガーの熱が足に伝わってきて、冷める前に食べなきゃと少し焦る。
そこから15分くらいで、ようやく海に着いた。
まだ少し寒いけど、サーフィンをしてたり、砂で遊んでいる家族がいた。
砂の上にドカッと座ったパパが、私を手招きしている。
急いで走っていこうとしたら、靴に砂が入るし、ずぶずぶと足は沈んでいくし、ちょっと最悪だった。
そしてパパと二人きり、浜辺のピクニックがスタートしたのだ。
海から吹いてくる風が強くて、ハンバーガーの袋が飛ばない様に二人でお尻の下に押さえつけながら、少し冷めたハンバーガーとポテトを食べる。
パパと二人でこんな風にお出かけすることはあんまりないから、何を話そうか少し気まずかったけど、パパの方から色々質問してくれるから、それに答えるだけでよかったのが、楽だった。
「けんかしちゃったんだって?」
たくさんの質問のあと、パパは私に聞いてきた。
ママがパパに言ったんだ、とすぐに分かった。
私は昨日の土曜日、親友と喧嘩して帰ってきた。
せっかく楽しく遊んでいたのに、なんだか本当に小さなことで喧嘩になって、そのままお互いに謝れずに帰ってきてしまった。
そのことを、家に帰ってからママに話していた。
ママとはよく話すけど、パパにはこんな話したことない。
だから、パパに話してしまったママはひどい、と思った。
「…うん。」
しょうがなく、私は頷いた。
「そっか、仲直りできそうか?」
そうパパはまた質問してきた。
「わかんないよ、そんなの。」
私はそう言った。
するとパパは、
「パパには、もう喧嘩して25年くらい経つ友達がいるよ。向こうは、もう友達と思ってないかもしれないけど。」
と話してきた。
「パパは喧嘩したことを後悔している。嬉しいことがあった時、悲しいことがあった時、一番にその子に伝えたいと思ったのに、喧嘩してるから言えなかった。一番に話したい友達だったのに、仲直りできなかった。」
パパの話を聞いて、私は親友のあの子のことを思った。
私も、いつもあの子と色々なことを相談しあってる。
何かあるといつも話したくなるのは、あの子だ。
もし私もパパみたいにずっと仲直りできなかったら。
そう思うと、急に寂しくなって、涙がこぼれてきた。
「私、そんなの寂しい…。」
そう絞り出した。
パパは、うんうんと頷きながら、
「帰りにその子のお家に寄っていこうか!パパ、今日は車だから早いぞ〜!」
と言った。
私は小さく頷いた。
それだけ確認すると、パパは、綺麗だな〜、いい風だな〜と呟きながら、海の方を眺めていた。
口に含んだポテトは、涙を吸って少し塩味が濃くなっていた。
そして、より一層しなしなになっているのを感じた。
多分、この味と食感はずっと忘れない気がする、と私は心の中で思った。