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短編148.『五階以上』(3/4)

 割としっかりとした造りの階段だった。非常階段のようなものを想像していたが、真逆だった。擬似大理石のような色合いで、踏み抜く心配も無さそうだった。

 どういう仕組みなのかは分からないが、一度気を失ったことで逆に気が強くなったように思える。ーーーこの先に何が待ち受けていても蹴り飛ばしてやる。そんな気分だった。人体とはえてして不思議なものだ。

 階段の最上段には、かつて扉があったのだろう、次のフロアへの入り口が闇に口を開ける獅子が如く空いていた。エレベーターには表示されていない階。6F。最終階であろう7Fへと続くフロアだ。

 なんだかRPGの主人公にでもなったような気分だ。七階にはラスボスが待ち受けている。セーブポイントはあるだろうか。

 六階はワンフロアぶち抜きで広い空間が広がっていた。何もない。いや、あった。その空間の真ん中辺り、そこにはソファと応接テーブルが置かれていた。しかし、それだけだった。がらんどう。

 近寄ってスマートフォンのライトを当てると、奇妙なことに気付いた。テーブルの上には聖杯のようなものが置かれている。中身は…半分ほどが満たされていた。グラスの縁を指でなぞる。指先は湿った。それほど永く放置されている訳ではないことが分かった。…分かったところで、身に迫る危機は増すだけなのだが、恐怖心は好奇心に打ち負かされていた。ソファの窪みを触る。まだ仄かに温かい。

 ーーーいる。

 そう思った。疑念は確信へとその容貌を変えた。朧げな月が朝日にその位置を取って代わられるように。

 この階に隠れるような場所は無かった。ライトで四方を照らすも空虚がこちらを見返すだけだった。

 上の階への階段はすぐに見つかった。

          *

(4/4)に続く。

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