トラキア・プロジェクト~クラシックとギリシャ・ペルシャ伝統音楽の架け橋~
(投げ銭方式にしてありますが、最後までお読みいただけます)
昨日は、三鷹市芸術文化センターというところに音楽を聴きに行った。
この演奏会を知ったのは、Twitterでフォローさせていただいている方がリツイートされていたアカウントがきっかけ。昨日のイベントについて告知されており、実のところ私の自宅から会場までバス一本で行けるので、馴染みのないジャンルではあったが足を運んでみようと思った次第だ。
まず会場についてだが、「風のホール」という名前がまた良い。この会場を訪れるのは初めてで、入ってみるまでは「『風のホール』なんて名前が付いているけど、市の施設だし、なんてことないホールなんだろうな」と思っていたのだが、これが大間違い。
木造の教会にいるかのような気持ちになる空間だった。
(ちなみに、小ホールが『星のホール』なのも素敵である。)
肝心の演奏についても、素晴らしい体験だった。残念がら私は音楽について語る言葉を持ち合わせてないのだが、精一杯書き連ねてみたい。
演奏者は、チェリストのジャン=ギアン・ケラス氏と、打楽器奏者のケイヴァン・シェミラーニ氏、同じく打楽器奏者のビヤン・シェミラーニ氏(両シェミラーニ氏は兄弟)、そしてリラ奏者のソクラティス・シノプロス氏。奏でる音楽は「ギリシャ、トルコ、ブルガリア各国の一部に広がる『トラキア』と呼ばれる地域の音楽」だ。
初めて聴くトラキア音楽は、「エキゾチック」という一言では済ますことができない、心地良いうねりを感じる素晴らしいものだった。
リラの音色を生で聴くのも初めてだったし、弦を弓で叩いて音を出す奏法も新鮮。
そして何よりも印象的だったのは、シェミラーニ兄弟による打楽器。プログラムには「ザルブ」と「ダフ」という名称が書いてあり、ともにペルシャの伝統楽器らしい。ザルブは酒杯型の打楽器、ダフはタンバリンに似た打楽器だ。
この2つの打楽器の演奏方法が、とにかく面白い。胴が木でできた打楽器について、皮の貼られた部分だけではなく胴を叩いて音を出す、ということは他の打楽器でもあるかもしれないが、兄弟の叩くザルブからは本当に様々な音が鳴っていた。また(これはサルブでもダフでも使っていた奏法だが)、皮の部分は単に叩くだけではなく、指先を素早く動かして細かい音を出したり、爪の先でスクラッチして長い音を出すなど、楽器全体を余すことなく使っていたのだ。
ダフについても、ある曲では手に持って鳴らしたかと思えば、別の曲では置台に掛けて鳴らしてみたり、さらには置台に掛けた状態で足を踏みならすことでダフに付いた金属の輪を鳴らしたり。二人の姿を眺めているだけでも飽きることがなかった。
そこで刻まれるリズム自体も、西洋音楽やポップスに慣れ親しんだ私の耳には新鮮に響く。こういう時、自分がいかに「ポピュラーなもの」ばかりに接しているかを思い知る。
曲目としては、結婚式などで演奏される舞踏曲が含まれていたこともあってか、聴いているうちに身体が勝手に動き出しそうになった。
さらには、兄弟による即興演奏が2曲、さらにリラも加えた即興演奏も1曲あったのだが、いわゆる「グルーヴ感」が素晴らしかった。聴衆の側も熱気が高まっていく様子が伝わってきて、まさに一体感。兄弟の即興演奏をリラのシノプロス氏がニコニコしながらリズムに乗って頭を振りつつ聴いていた姿も印象的だった。
ちなみに、アンコール終盤にかけて聴衆の熱気は保たれて、ある曲が終わった瞬間、後ろのご婦人が「イェーイ!!」と叫んでいたほどだった。私も一緒に叫びたかったくらいだ。
私にとって、音楽と言葉はどこか似ている、それは響きの意外さやリズムの面白さだったりするのだろうが、まさに今回の演奏会は新しい言語に出会ったような気にさえなった。音楽も色々、言語も色々。
もっと言えば、伝統楽器についても、近い地域のものが似ていることもあるがでもやっぱり違う、というのも言語っぽい。
リラの音色を聴きながら、中国の伝統楽器である二胡の演奏を聴きたくなったのは、また別のお話。
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