神様のいる街/吉田篤弘
『神様のいる街』
2018年4月25日 第1版発行
著者:吉田篤弘
編集者:島田潤一郎
装幀:クラフト・エヴィング商會
発行所:株式会社夏葉社
※時々の、書評シリーズです。
造本から言っても、分量から言っても、小さな本だ。
縦18cm弱、横12cm弱で、1時間もあれば読み終わってしまう。
だが、その小ささに反して、読後の余韻はたっぷりだ。
クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘さんによる、自伝的エッセイ+幻の処女作『ホテル・トロール・メモ』を収録した小著。
エッセイでは、青春時代に様々な想いを持って訪れた2つの街のことが綴られる。神保町と神戸。そのどちらにも、「神」さまがいるのだ。
神保町で古本を探し歩いたこと、神戸で頭をからっぽにするために六甲ライナーに乗りアイランドを一周したこと…静かな筆致は、心に染み入ってくる。
2つの街に関する、印象深いくだりを引用してみたい。
神保町
お金を儲けることを考えなければ、人生には時間がたっぷりあるーー。
お金なのか、時間なのか。本当に必要なのは、はたしてどちらなのか。
答えは出なかった。
神戸
あちらとこちらを選びかねた自分の頭をひとつに統一するのではなく、そのまま、ふたつの方角へ同時に進んで行くにはどうしたらいいのか。その問いを考える街として神戸はうってつけだった。
引用しながら初めて気づいたのだが、奇しくも私の印象に残ったのは「ふたつものを選び取ることの難しさ」に関する記述だった。
たぶん今、私自身も「生活を維持するために今の会社に勤め続けるか、貰えるお金のことなど気にせず本当に好きなことをして生きていくか」ということについて、頭のどこかで考えているからだろう。
何かしらの作品に向き合う時、その人の置かれている状況によって作品の味わい方が影響される、ということなのかもしれない。
余談だが、個人的に神保町に関する思い出はある種の郷愁をもって読んだ。
以前、神保町の会社で働いていたことがあり、街の空気に懐かしさを感じるのだ。
街の思い出は、色褪せない。
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