サステナビリティ科学の2020年代初期の現状と課題

環境科学会誌の論文にまとめたサステナビリティ科学の現時点(2022年頃)の現状と課題をさらにまとめてみました。これらは過去20~30年の研究や社会動向をふまえたうえでの認識を示すものです。

  1. サステイナビリティに関する研究対象が拡大し、複雑な人間‒地球環境システムのより包括的な理解は進められてきたものの、サブシステム間の相互作用を本格的に扱う研究は発展途上である。

  2. 人間‒地球環境システムの構造的認識を問い直すラディカルな思索が出現している。

  3. 持続可能性とはどういった状況かというクライテリアの設定は実務が先行しているが、その科学的な論拠付けをしていくことが大切。これは、SDGsを改定するうえでの論拠となり、今後の実務においても重要になる。また、実務に使える各ステークホルダーレベルでのクライテリアの設定には課題が残る。

  4. 社会目標を再考するうえで、トランス・サイエンスの観点から科学界が社会との対話を続けていくことが求められる。

  5. 経済成長に変わる社会目標として幸福度の研究が注目されるが、「人生の評価」としての幸福度研究などに研究課題を残している。

  6. 人類が避けるべきリスク事象に対する認知形成が適正に行われるように、民主性と科学性の両立を図ることが求められる。

  7. 持続可能性の議論において、世代間問題の解決という議論も進展しはじめているが、多くの研究課題を残している。

  8. サステイナビリティ科学全体としては漸進的な政策・取組からラディカルな政策・取組までの幅広いアプローチで研究展開を図ることが望まれる。特にシステム転換アプローチに係る知見集積に今後の研究への期待がかかる。

  9. ビジョンの形成からスタートし、試行検討を通じてシステム転換を図る創発型の政策アプローチは、従来の環境政策アプローチとは大きく異なるため、共創や協働、ネットワーク型のガバナンス手法を採用しながら実践知を獲得・蓄積していくことが望まれる。

  10. サブナショナルなアクターなどが活躍し、従来は政策担当者が担っていた役割が変容していることをふまえた政策の形成と実施が求められる。そのような性質の政策を支援する研究を行うことが期待される。

  11. 上記の論点にチャレンジできる資質を持った人材の育成と活躍の場の創出が求められる。その教育効果を示す研究にも期待がかかる。

もう少し詳しく知りたい方は、論文(https://doi.org/10.11353/sesj.36.53)をご覧ください。

 ところで、これらの課題をまとめるにあたり、273の文献を引用しました。しかし、これは自分が認識している文献のおよそ1/6ぐらいしか引用できませんでした。日本語の論文・論説でこの数は多い方だと思いますが、それでもまだまだ一部であり、人類のサステナビリティを考えるには多くの知見が必要ということを改めて感じざるを得ませんでした。
 なお、最近は生成型AIが登場するなど、これまで以上に大量の情報を扱うことができるようになりました。人間一人ではまとめることができなかったことを、AIのサポートを経て、まとめることができるようになる時代が到来しつつあるようにも思います。AIが言っていることの妥当性チェックができる程度には著者のレベルを高めていなければならないですが、新たな可能性が拡がっていることを的確に認識しておきたいと思うのです。

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