つながっていると信じてみたい
人は、共通点に敏感だと思う。初めましての人との会話はその人のことを知る時間というよりも、共通点探しの時間のように感じる。共通の趣味、共通の知人、共通の出身。どれだけ共通点を探すかに、その場の会話を盛り上げられるかがかかっている。共通点があればあるほど、見えない糸、たとえば運命とでも言うのだろう。そんな儚くて恍惚としてしまうような線でつながれていると否が応でも思ってしまう。もはや、共通点がなければその人と関係性を築いていくことすら難しいと感じるのは、イマドキなのか。こんなつまらないことを考えながら、私は何億回目の「初めまして」を繰り返す。
読書が好きな人は、私の周りを見る限りとても少ない。ただ、世界を見渡せば多いのだろうけれど、いろんな遊びで溢れている大学生にとって読書は管轄外なのかもしれない。私は好奇心お化けなこともあり、基本的に誰にでも当てはまりそうな趣味を持っている。読書、映画、アニメ、漫画、旅行、お笑い、音楽など、話す話題には困らない程度に漁っている。その中でもニッチなのがやはり、読書だった。読書は一人でもできるけれど、感想を共有したくなるときもある。そう思う度、ひどく一人なのだということを実感させられる。「ライブの連番できるぐらいの友達欲しいです!」とか「#本好きさんと繋がりたい」みたいにネットで探せば済む話しなのだろう。赤外線という名の線にはつながりの実感を持つことができないくらいに私は我が儘なのです。
今年は大学生になって最もいろんな人と出会った年だった。なんと言っても、読書が好きだと言う人に出会うことができた。自分が好きな著名人についての説明を英作文するという英語の課題が出た。そこで、誰について書いたのかをグループで共有したとき、村上春樹を口にした人がいた。絶対本読むの好きじゃん!と偏見の塊ではあるものの確信はあった。村上春樹に食いつく私に、驚いていたのは言うまでもない。それこそ、運命とか奇跡みたいな言葉で形象したくなる瞬間だった。何の変哲もない四角い教室で、何の特徴もない英語課題を通じて見つけた人と、読書が好きという稀有な共通点でつながった。
ほとんど毎週、読んだ本、購入した本、読んできた中でおすすめの本をひたすら話した。お互い読む作家は違うものの、同じ本を読んでいたことも多かった。本の話を聞く度、相手の本棚を想像する。そして、本の系統とよく読む作家から、なんとなく相手の惹かれるものがわかってくる。住んでいるところも行きつけの本屋も違うのに、新刊の話をすることができる。それだけで、共通点があるとこんなにも会話は楽しいのかと思い知らされる。
この共通点を条件にはしたくない。この人と今後関係性を築いていく可能性はあるかを見定めるためのチェックリストにはしたくない。共通点を除いたとしても、十二分に会話をすることが楽しかった。
ある日、いつもと同じように本の話をしていた。すると、「本が好きですと言うと、『すごい』って言われるのあんまわかんないんだよね」と伝えてくれた。その瞬間、心の底から、つながっていると信じてみたいと思った。このことについて、私も考えていたからだった。実際、noteにも投稿していた。今までのように、手に取る本だけでなく、生活の中で感じることすら共通点を持っていたことを知ってしまうと、もうどうしようもなかった。少し狼狽した後、確かな言葉で私が思うことを伝えてみた。共通点がないと親近感が湧かず、どこか他人事になるのがきっと普通なんだと思うこと。ネットに慣れきってしまうと、あんな文字だらけの物体は敬遠してしまうこと。
私の耳に届いた、「そうか」という声はとても静かで、悲しそうで、冷たくて、触れるとすぐに溶けてしまいそうだった。その声を掴みたかった。抱きしめたかった。だから私は、あなたが本を好きだと知ることができてとても嬉しかったと伝えた。きっと、読書を勉強でも強制的にでもなく、純粋な心で楽しいと思っているのに「すごい」という言葉一つで別世界に追いやられることに対して、心に靄がかかっていたのだろう。あなたのおかげで私の世界は変わったんだよと、知って欲しかった。
共通点は、つながりを作る材料となるだけで、心のつながりには直結しないのだと思う。そう思わせて欲しい。何度もあの声と言葉が私の頭を反芻するから、私が言ったことは正しかったのかをひたすら逡巡する。
私は会話を重んじる傾向がある。会話にならない言葉で返答されたり、コスメの話とかmbtiとか好きなタイプについて話したりするより、読書が好きだとすごいと言われるのが不思議だとか、どこのコンビニが一番だとかを話したい。どこがどう違うのか伝わらないと思う反面、ちゃんと伝わる人もいると信じている。私の中ではまだうまく言語化できていないから悔しいけれど、私とあなただからできる会話をしたいということ。だから、『たとえば、私はあなたとこういう話がしたい』と言い続けて、文章を書いている。その答えを、あなたと、この文章の海から探し出したい。
拙くて、取るに足りない文章だとは思うけれど、いつもスキやコメントを届けてくれてありがとうこざいます。今年も言葉を散らしていきます。
本について思うことをすべて書いた記事です。