「民族楽器」の話
私は民族楽器が好きだ。
日本だけにとどまらず。アフリカでも、オーストラリアでも、アメリカでも。
知識としては圧倒的に少ないのだが、民族楽器に拒否感を覚えることもないし、なんなら欲しい、演奏してみたいと思う。
現に篠笛と笙とカズーくらいなら持っている。
篠笛に関しては地元の祭で太鼓ではなく篠笛を担当していたから馴染みがあるというのも買った理由だ。
なんとなくメロディ楽器に惹かれるのだろうか。
しかし今欲しいのはパンデイロだ。
打楽器である。
とにかくいろんな楽器がほしいのだろう。
なぜかと聞かれるとよくわからない。
音楽を聴くようになって、民族音楽も聴くから民族楽器も……というのも確かにあるかもしれない。
しかし今日その「民族楽器への親しみ」とも呼べるべき根源の記憶がはたと蘇った。
小学生の頃の記憶である。
小学校には多目的室という少し広めの部屋があった。
ある日そこに様々な民族楽器を集めて、皆で自由に触ってみよう。というイベントがあった。
各クラスには「総合」というクラスごとに何をするか自由にできる科目があり、このイベントはその総合の時間に行われた。
私のクラスの番になり、皆が多目的室に集まった。
様々な楽器があった。各々好きな楽器を手にして、叩いたり吹いたりしていた。
多目的室には楽器の所有者であろうおじさんがいた。
楽器を手にする子どもたちに歩み寄っては、どうやって音を鳴らすのかニコニコしながら教えていた。
そんな中私は、見知らぬおじさんとコミュニケーションをとるのも、クラスの皆がいる中音を鳴らすのもなんだか恥ずかしかった。
皆が音を鳴らしているのをただ眺めているだけだった。
そうこうしているうちに時間は終わった。
クラスへ戻り、通常の授業を受けてその日の内容は終わった。
しかし私は家へ帰るでもなく、多目的室に行った。少しだけでも音を鳴らしてみたいと思った。
こっそり部屋に忍び込み、誰も居ないのを確認してから、ギロに手を伸ばした。
なぜギロかは覚えていないが、最も手軽に音を鳴らせると思ったからだろう。
ジャコジャコと音を鳴らして1人遊んでいると、例のおじさんがいきなり部屋に入ってきた。
音に気づいたのだろうか、はたまた片付けのために戻ってきたのかは分からないが、とっさに私は「叱られる」と思い硬直してしまった。
ところがおじさんはニッと笑って「ダメ、続けて、そのリズムで」
そういってパンデイロを手に取った(当時の私はタンバリンだと思っていた)
私がギロで作ったリズムにおじさんがパンデイロで合わせてくる。
即興のリズムセッションだ。
私はとにかく恥ずかしかったのだが、ギロを鳴らすのをやめようとはしなかった。きっとそこで演奏の楽しさを感じたからだと思う。
一通り弾き倒しておじさんが言った。「どう?楽しいでしょう?」
私は静かに頷いて部屋から逃げ出した。
今思うと申し訳ないことをしたと思う。
きっとあれは人生で初めてのセッションだった。
そして楽しかった。
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これがきっと私の中の「民族楽器」の原点だと思う。
パンデイロが欲しいと思うのも、同じバンドの先輩がパンデイロを弾くというのももちろんだが、あのおじさんへの親しみもあってのことだろう。
なんで今まで忘れていたんだろう。
逃げ出したことへの罪悪感から忘れようとしていたのだろうか。
それでもこの記憶は温かい記憶だ。
なんだか思い出せてよかった。
最近思い出すことができにくいからなおさらだ。
それについてはまたどこかで書いておくことにしよう。
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