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第15章 ボーバトンとダームストラング 1

翌朝、早々と目が覚めたハリーは、まるで眠っている脳みそが、夜通しずっと考えていたかのように、完全な計画が頭の中にでき上がっていた。
起きだして薄明りの中で着替え、ロンを起こさないように寝室を出て、ハリーはだれもいない談話室に戻った。
まだ「占い学」の宿題を置きっぱなしになっているテーブルから、羊皮紙を一枚取り、ハリーは手紙を書いた。

シリウスおじさん
傷痕が痛んだというのは、僕の思い過ごしで、この間手紙を書いたときは半分寝ぼけていたようです。こちらに戻ってくるのは無駄です。こちらは何も問題はありません。僕のことは心配しないでください。僕の頭はまったく普通の状態ですから。
                ハリーより

それから、肖像画の穴をくぐり、静まり返った城の中を抜け(五階の廊下の中ほどで、ピーブズが大きな花瓶を引っくり返してハリーにぶつけようとしたことだけが、ハリーをちょっと足止めしたが)、ハリーは西塔のてっぺんにあるふくろう小屋に辿り着いた。

小屋は円筒形の石造りで、かなり寒く、隙間風が吹き込んでいた。
どの窓にもガラスがはまっていないせいだ。
床は、ワラやふくろうの糞、ふくろうが吐き出したハツカネズミやハタネズミの骨などで埋まっていた。塔のてっぺんまでビッシリと取りつけられた止まり木に、ありとあらゆる種類のふくろうが、何百羽も止まっている。
ほとんどが眠っていたが、ちらりほらりと琥珀色の丸い目が、片目だけを開けてハリーを睨んでいた。
ヘドウィグがメンフクロウとモリフクロウの間にいるのを見つけ、ハリーは、糞だらけの床で少し足を滑らせながら、急いでヘドウィグに近寄った。

ヘドウィグを起こして、ハリーのほうを向かせるのに、ずいぶんてこずった。なにしろヘドウィグは、止まり木の上でゴソゴソ動き、ハリーに尾っぽを向け続けるばかりだった。昨夜、ハリーが感謝の礼を尽くさなかったことに、まだ腹を立てているのだ。
ついにハリーが、ヘドウィグは疲れているだろうから、ロンに頼んでピッグウィジョンを貸してもらおうかな、とほのめかすと、ヘドウィグはやっと脚を突き出し、ハリーに手紙をくくりつけることを許した。

「きっとシリウスを見つけておくれ、いいね?」
ハリーは、ヘドウィグを腕に乗せ、壁の穴まで運びながら、背中を撫でて頼んだ。
吸魂鬼ディメンターより先に」
ヘドウィグはハリーの指を甘噛みした。どうやら、いつもよりかなり強めの噛み方だったが、それでも、お任せくださいとばかりに、静かにホーと鳴いた。
それから両の翼を広げ、ヘドウィグは朝日に向かって飛んだ。その姿がみえなくなるまで見送りながら、ハリーは、いつもの不安感がまた胃袋を襲うのを感じた。
シリウスから返事が来れば、きっと不安は和らぐだろうと信じていたのに。
かえってひどくなるとは。

「ハリー、それって、嘘でしょう
朝食のとき、ハーマイオニーとロンに打ち明けると、ハーマイオニーは厳しく言った。
「傷痕が痛んだのは、勘違いじゃないわ。知ってるくせに」
「だからどうだっていうんだい?」
ハリーが切り返した。
「僕のせいでシリウスをアズカバンに逆戻りさせてなるもんか」
ハーマイオニーは、反論しようと口を開きかけた。
「やめろよ」
ロンがピシャリと言った。ハーマイオニーは、このときばかりはロンの言うことを聞き、押し黙った。

それから数週間、ハリーはシリウスのことを心配しないように努めた。
もちろん、毎朝ふくろう郵便が着くたびに、心配で、どうしてもふくろうたちを見回してしまうし、夜遅く、眠りに落ちる前に、シリウスがロンドンの暗い通りで吸魂鬼ディメンターに追いつめられている、恐ろしい光景が目に浮かんでしまうのも、どうしようもなかった。
しかし、それ以外は、名付親のシリウスのことを考えないように努めた。
ハリーは、クィディッチができれば気晴らしになるのにと思った。心配事がある身には、激しい特訓ほどよく効く薬はない。
一方、授業はますます難しく、苛酷かこくになってきた。とくに、「闇の魔術に対する防衛術」がそうだった。

驚いたことに、ムーディ先生は、「服従の呪文」を生徒一人ひとりにかけて、呪文の力を示し、果たして生徒がその力に抵抗できるかどうかを試すと発表した。

ムーディは杖を一振りして机を片づけ、教室の中央に広いスペースを作った。そのとき、ハーマイオニーが、どうしようかと迷いながら言った。
「でも__でも、先生、それは違法だとおっしゃいました。たしか__同類であるヒトにこれを使用することは__」
「ダンブルドアが、これがどういうものかを、体験的におまえたちに教えてほしいというのだ」
ムーディの「魔法の目」が、ぐるりと回ってハーマイオニーを見据え、瞬きもせず、不気味なまなざしで凝視した。

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