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第1章 リドルの館 6

決めかねている間に、ヘビはそばまでやってきた。そして、信じられないことに、奇跡的にそのまま通り過ぎていった。
ドアのむこうの冷たい声の主が出す、シュー、シュー、シャーッ、シャーッという音を辿り、まもなく菱形ひしがた模様の尾がドアの隙間から中へと消えていった。

フランクの額には汗が噴き出し、杖を握った手が震えていた。部屋の中では冷たい声がシューシュー言い続けている。
フランクはふと奇妙な、ありえない考えにとらわれた……この男は蛇と話ができるのではないか

何事が起っているのか、フランクにはわからなかった。湯たんぽを抱えてベッドに戻りたいと、ひたすらそれだけを願った。自分の足が動こうとしないのが問題だった。
震えながらその場に突っ立ち、なんとか自分を取り戻そうとしていたそのとき、冷たい声が急に普通の言葉に変わった。

「ワームテール、ナギニがおもしろいしらせをもってきたぞ」
「さ__さようでございますか、ご主人様」ワームテールが答えた。
「ああ、そうだとも」冷たい声が言った。
「ナギニが言うには、この部屋のすぐ外に老いぼれマグルが一人立っていて、我々の話を全部聞いているそうだ」
身を隠す間もなかった。足音がして、部屋のドアがパッと開いた。

フランクの目の前に、鼻の尖った、色の薄い小さい目をした白髪混じりの禿げた小男が、恐れと驚きの入り混じった表情で立っていた。
「中にお招きするのだ。ワームテールよ。礼儀を知らぬのか?」
冷たい声は暖炉前の古めかしいひじ掛け椅子から聞こえていたが、声の主は見えなかった。
蛇は、朽ちかけた暖炉マットにとぐろを巻いてうずくまり、まるで恐ろしい姿のペット犬のようだった。

ワームテールは部屋に入るようにとフランクに合図した。
ショックを受けてはいたが、フランクは杖をしっかり握り直し、足を引きずりながら敷居を跨いだ。

部屋の灯りは暖炉の火だけだった。その灯が壁に蜘蛛のような影を長く投げかけている。フランクは肘掛椅子の背を見つめたが、男の後頭部さえ見えなかった。座っている男は、召使いの小男より小さいに違いない。

「マグルよ。すべて聞いたのだな?」冷たい声が言った。
「俺のことをなんと呼んだ?」
フランクは食ってかかった。もう部屋の中に入ってしまった以上、何かしなければならない。フランクは大胆になっていた。戦争でもいつもそうだった。
「おまえをマグルと呼んだ」
声が冷たく言い放った。
「つまりおまえが魔法使いではないということだ」
「おまえ様が魔法使いと言いなさる意味はわからねえ」
フランクの声がますますしっかりしてきた。
「ただ、俺は、今晩警察の気を引くのに十分のことを聞かせてもらった。ああ、聞いたとも。おまえ様は人殺しをした。しかもまだ殺すつもりだ!それに、言っとくが」
フランクは急に思いついたことを言った。
「かみさんは、俺がここに来たことを知ってるぞ。もし俺が戻らなかったら__」
「おまえに妻はいない」
冷たい声は落ち着き払っていた。
「おまえがここにいることはだれも知らぬ。ここに来ることを、おまえはだれにも言っていない。ヴォルデモート卿に嘘をつくな。マグルよ。俺様にはお見通しだ……すべてが……」
「へえ?」
フランクはぶっきらぼうに言った。
「『卿』だって?はて、卿にしちゃ礼儀をわきまえていなさらん。こっちを向いて、一人前の男らしく俺と向き合ったらどうだ。できないのか?」
「マグルよ。俺様は人ではない」
冷たい声は、暖炉の火の弾ける音でほとんど聞き取れないほどだった。
「人よりずっと上の存在なのだ。しかし……よかろう。おまえと向き合おう……ワームテール、ここに来て、この椅子を回すのだ」
召使いはヒーッと声をあげた。
「ワームテール、聞こえたのか」
ご主人様や蛇のうずくまる暖炉マットのほうへ行かなくてすむのなら、なんだってやるとでもいうように、ソロソロと、顔を歪めながら小男が進み出て椅子を回しはじめた。椅子の脚がマットに引っかかり、蛇が醜悪な三角の鎌首をもたげて微かにシューッと声をあげた。

そして、椅子がフランクの方に向けられ、そこに座っているものをフランクは見た。杖がポロリと床に落ち、カタカタと音を立てた。
フランクは口を開け、叫び声をあげた。あまりに大声で叫んだので、椅子に座っている何者かが杖を振り上げ何か言ったのも聞こえなかった。
緑色の閃光が走り、音がほとばしり、フランク・ブライスはグニャリとくず折れた。
床に倒れる前にフランクは事切れていた。

そこから300キロ離れたところで、一人の少年、ハリー・ポッターがハッと目を覚ました。

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