第8章 絶命日パーティ 7
「なんとまあ」ハーマイオニーが悲しそうに言った。
今度は「ほとんど首無しニック」が人混みを掻き分けてふわふわやってきた。
「楽しんでいますか?」
「ええ」みんなで嘘をついた。
「ずいぶん集まってくれました」「ほとんど首無しニック」は誇らしげに言った。
「『めそめそ未亡人』は、はるばるケントからやってきました…そろそろ私のスピーチの時間です。むこうに行ってオーケストラに準備させなければ…」
ところが、その瞬間、オーケストラが演奏をやめた。楽団員、それに地下牢にいた全員が、狩の角笛が鳴り響く中、シーンと静まり、興奮して周りを見回した。
「あぁ、始まった」ニックが苦々しげに言った。
地下牢の壁から、十二騎の馬のゴーストが飛び出してきた。それぞれ首無しの騎手を乗せていた。観衆が熱狂的な拍手を送った。ハリーも拍手しようと思ったが、ニックの顔を見てすぐに思いとどまった。
馬たちはダンス・フロアの真ん中までギャロップで走ってきて、前に突っ込んだり、後脚立ちになったりして止まった。先頭の大柄なゴーストは、顎髭を生やした自分の首を小脇に抱えていて、首が角笛を吹いていた。そのゴーストは馬から飛び降り、群衆の頭越しに何か見えるように、自分の首を高々と掲げた(みんな笑った)。それから「ほとんど首無しニック」の方に大股で近づき、首を胴体にグイと押し込むように戻した。
「ニック!」吼えるような声だ。
「元気かね?首はまだそこにぶら下がっておるのか?」
男は思いきり高笑いして、「ほとんど首無しニック」の肩をパンパン叩いた。
「ようこそ、パトリック」ニックが冷たく言った。
「生きてる連中だ!」
パトリック卿がハリー、ロン、ハーマイオニーを見つけて、驚いたふりをしてわざと大げさに飛び上がった。狙い通り、首がまたころげ落ちた(観衆は笑いころげた)。
「まことに愉快ですな」「ほとんど首無しニック」が沈んだ声で言った。
「ニックのことは、気にしたもうな!」床に落ちたパトリック卿の首が叫んだ。
「我々がニックを狩クラブに入れないことを、まだ気に病んでいる!しかし、要するに__彼を見れば__」
「あの__」ハリーはニックの意味ありげな目つきを見て、慌てて切り出した。
「ニックはとっても__恐ろしくて、それで__あの…」
「ははん!」パトリック卿の首が叫んだ。「そう言えと彼に頼まれたな!」
「みなさん、ご静粛に。ひとこと私からご挨拶を!」「ほとんど首無しニック」が声を張り上げ、堂々と演壇の方に進み、壇上に登り、ひやりとするようなブルーのスポットライトを浴びた。
「お集りの、今は亡き、嘆かわしき閣下、紳士、淑女の皆様。ここに私、心からの悲しみをもちまして…」
そのあとは誰もきいてはいなかった。パトリック卿と「首無し狩クラブ」のメンバーが、ちょうど首ホッケーを始めたところで、客はそちらに目を奪われていた。「ほとんど首無しニック」は聴衆の注意を取り戻そうとやっきになったが、パトリック卿の首がニックの脇を飛んで行き、みんながワッと歓声をあげたので、すっかりあきらめてしまった。
ハリーはもう寒くてたまらなくなっていた。もちろん腹ペコだった。
「僕、もう我慢できないよ」ロンがつぶやいた。
オーケストラが演奏を始め、ゴーストたちがするするとダンス・フロアに戻ってきたとき、ロンは歯をガチガチ震わせていた。
「行こう」ハリーも同じ思いだった。
誰かと目が合うたびにニッコリと会釈しながら、三人はあとずさりして出口へと向かった。ほどなく、三人は黒い蝋燭の立ち並ぶ通路を、急いで元来た方へと歩いていた。
「デザートがまだ残っているかもしれない」
玄関ホールに出る階段への道を、先頭を切って歩きながら、ロンが祈るように言った。
そのとき、ハリーははの声を聞いた。
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