第19章 ヴォルデモート卿の召使い 3
一年前の夏、「日刊予言者新聞」に載ったロンと家族の写真だった。そして、そこに、ロンの肩に、スキャバーズがいた。
「いったいどうしてこれを?」雷に打たれたような声でルーピンが聞いた。
「ファッジだ」ブラックが答えた。「去年、アズカバンの視察に来たとき、ファッジがくれた新聞だ。ピーターがそこにいた。一面に……この子の肩に乗って……わたしにはすぐわかった……こいつが変身するのを何回見たと思う?それに、写真の説明には、この子がホグワーツに戻ると書いてあった……ハリーのいるホグワーツへと……」
「なんたることだ」
ルーピンがスキャバーズから新聞の写真へと目を移し、またスキャバーズの方をじっと見つめながら静かに言った。
「こいつの前足だ……」
「それがどうしたって言うんだい?」ロンが食ってかかった。
「指が一本ない」ブラックが言った。
「まさに」
ルーピンがため息をついた。
「なんと単純明快なことだ……なんとこざかしい……あいつは自分で切ったのか?」
「変身する直前にな」ブラックが言った。
「あいつを追いつめたとき、あいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。わたしがジェームズとリリーを裏切ったんだと。それから、わたしがやつに呪いをかけるより先に、やつは隠し持った杖で道路を吹き飛ばし、自分の周り五、六メートル以内にいた人間を皆殺しにした__そしてすばやく、ネズミがたくさんいる下水道に逃げ込んだ……」
「ロン、聞いたことはないかい?」ルーピンが言った。「ピーターの残骸で一番大きなのが指だったって」
「だって、たぶん、スキャバーズはほかのネズミと喧嘩したかなんかだよ!こいつは何年も家族の中で”お下がり”だった。たしか__」
「十二年だね、たしか」
ルーピンが言った。
「どうしてそんなに長生きなのか、変だと思ったことはないのかい?」
「僕たち__僕たちが、ちゃんと世話してたんだ!」ロンが答えた。
「いまはあんまり元気じゃないようだね。どうだね?」ルーピンが続けた。「わたしの想像だが、シリウスが脱獄してまた自由の身になったと聞いて以来、やせ衰えてきたのだろう……」
「こいつは、その狂った猫が怖いんだ!」
ロンは、ベッドでゴロゴロ喉を鳴らしているクルックシャンクスを顎で指した。
それは違う、とハリーは急に思い出した……スキャバーズはクルックシャンクスに出会う前から弱っているようだった……ロンがエジプトから帰って以来ずっとだ……ブラックが脱獄して以来ずっとだ……。
「この猫は狂ってはいない」
ブラックのかすれ声がした。骨と皮ばかりになった手を伸ばし、ブラックはクルックシャンクスのフワフワした頭を撫でた。
「わたしの出会った猫の中で、こんなに賢い猫はまたといない。ピーターを見るなり、すぐ正体を見抜いた。わたしに出会ったときも、わたしが犬ではないことを見破った。わたしを信用するまでにしばらくかかった。ようやっと、わたしの狙いをこの猫に伝えることができて、それ以来わたしを助けてくれた……」
「それ、どういうこと?」ハーマイオニーが息をひそめた。
「ピーターをわたしのところに連れてこようとした。しかし、できなかった……そこでわたしのためにグリフィンドール塔への合言葉を盗み出してくれた……誰か男の子のベッドわきの小机から持ってきたらしい……」
ハリーは話を聞きながら、混乱して頭が重く感じられた。そんなバカな……でも、やっぱり……。
「しかし、ピーターは事のなりゆきを察知して、逃げ出した……この猫は__クルックシャンクスという名だね?__ピーターがベッドのシーツに血の痕を残していったと教えてくれた……たぶん自分で自分を噛んだのだろう……そう、死んだと見せかけるのは、前にも一度うまくやったのだし……」
この言葉でハリーはハッと我にかえった。
「それじゃ、なぜピーターは自分が死んだと見せかけたんだ?」
ハリーは激しい語調で聞いた。
「おまえが、僕の両親を殺したと同じように、自分をも殺そうとしていると気づいたからじゃないか!」
「違う。ハリー__」ルーピンが口を挟んだ。
「それで、今度は止めを刺そうとしてやってきたんだろう!」
「その通りだ」ブラックは殺気だった目でスキャバーズを見た。