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第19章 ヴォルデモート卿の召使い 7

「わたしが正気を失わなかった理由は唯一ただひとつ、自分が無実だと知っていたことだ。これは幸福な気持ではなかったから、吸魂鬼ディメンターはその思いを吸いとることができなかった……しかし、その思いがわたしの正気を保った、自分が何者であるか意識しつづけていられた……わたしの力を保たせてくれた……だからいよいよ……耐えがたくなったときは……わたしは独房で変身することができた……犬になれた。吸魂鬼ディメンターは目が見えないのだ……」
ブラックはゴクリと唾を飲んだ。

「連中は人の感情を感じ取って人に近づく……わたしが犬になると、連中はわたしの感情が__人間的でなくなり、複雑でなくなるのを感じ取った……しかし、連中はそもちろんそれを、ほかの囚人と同じくわたしも正気を失ったのだろうと考え、気にもかけなかった。とはいえ、わたしは弱っていた。とても弱っていて、杖なしには連中を追い払うことはとてもできないと諦めていた……。
そんなとき、わたしはあの写真にピーターを見つけた……ホグワーツでハリーと一緒だと言うことがわかった……闇の陣営が再び力を得たとの知らせが、チラとでも耳に入ったら、行動が起こせる完璧な態勢だ……」

ペティグリューは声もなく口をパクつかせながら、首を振っていたが、まるで催眠術にかかったようにブラックを見つめ続けていた。
「……味方の力に確信を持てたら、とたんに襲えるように準備万端だ……ポッター家最後の一人を味方に引き渡す。ハリーを差し出せば、やつがヴォルデモート卿を裏切ったなどと誰が言おうか?やつは栄誉をもって再び迎え入れられる……。
だからこそ、わたしは何かをせねばならなかった。ピーターがまだ生きていると知っているのはわたしだけだ……」

ハリーはウィーズリー氏と夫人とが話していたことを思い出した。
「看守が、ブラックは寝言を言っていると言うんだ……いつも同じ寝言だ……『あいつはホグワーツにいる』って」

「まるで誰かがわたしの心に火をつけたようだった。しかも吸魂鬼ディメンターはその思いを砕くことはできない……幸福な気持ではないからだ……妄執もうしゅうだった……しかし、その気持がわたしに力を与えた。心がしっかり覚めた。
そこである晩、連中が食べ物を運んできて独房の戸を開けたとき、わたしは犬になって連中のわきをすり抜けた……連中にとって獣の感情を感じるのは非常に難しいことなので、混乱した……わたしはやせ細っていた。とても……鉄格子の隙間をすり抜けられるほどやせていた……わたしは犬の姿で泳ぎ、島から戻ってきた……北へと旅し、ホグワーツの校庭に犬の姿で入り込んだ……それからずっと森に棲んでいた……もちろん、一度だけクィディッチの試合を見にいったが、それ以外は……ハリー、君はお父さんに負けないぐらい飛ぶのがうまい……」
ブラックはハリーを見た。
ハリーも目をそらさなかった。

「信じてくれ」かすれた声でブラックが言った。
「信じてくれ、ハリー。わたしは決してジェームズやリリーを裏切ったことはない。裏切るくらいなら、わたしが死ぬ方がましだ」

ようやくハリーはブラックを信じることができた。
喉がつまり、声が出なかった。ハリーは頷いた。

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