第14章 許されざる呪文 8
ハリーは目を上げてロンとハーマイオニーを見た。二人もハリーを見つめ返した。
「北に向けて飛び発つって?」ハーマイオニーが呟いた。
「帰ってくるってこと?」
「ダンブルドアは、なんの気配を読んでるんだ?」ロンは当惑していた。
「ハリー__どうしたんだい?」
ハリーがこぶしで自分の額を叩いているところだった。
膝が揺れ、ヘドウィグが振り落とされた。
「シリウスに言うべきじゃなかった!」ハリーは激しい口調で言った。
「なにを言いだすんだ!」ロンはびっくりして言った。
「手紙のせいで、シリウスは帰らなくちゃならないって思ったんだ!」
ハリーは、今度はテーブルをこぶしで叩いたので、ヘドウィグはロンの椅子の背に止まり、怒ったようにホーと鳴いた。
「戻ってくるんだ。僕が危ないと思って!僕はなんでもないのに!それに、おまえにあげる物なんて、なんにもないよ」
ねだるように嘴を鳴らしているヘドウィグに、ハリーはつっけんどんに言った。
「食べ物がほしかったら、ふくろう小屋に行けよ」
ヘドウィグは大いに傷ついた目つきでハリーを見て、開け放した窓のほうへと飛び去ったが、行きがけに、広げた翼でハリーの頭のあたりをピシャリと叩いた。
「ハリー」ハーマイオニーがなだめるような声で話しかけた。
「僕、寝る。またあした」
ハリーは言葉少なに、それだけ言った。
二階の寝室でパジャマに着替え、四本柱のベッドに入ってはみたものの、ハリーは疲れて眠るという状態とはほど遠かった。
シリウスが戻ってきて、捕まったら僕のせいだ。
僕は、どうして黙っていられなかったのだろう。ほんの二、三秒の痛みだったのに、くだらないことをベラベラと……自分一人の胸にしまっておく分別があったなら……。
しばらくして、ロンが寝室に入ってくる気配がしたが、ハリーはロンに話しかけはしなかった。横たわったまま、ハリーはベッドの暗い天蓋を見つめていた。
寝室は静寂そのものだった。
自分のことでそこまで頭がいっぱいでなかったら、ハリーは気づいたはずだ。いつものネビルのいびきが聞こえないことに。
眠れないのはハリーだけではなかったのだ。
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