第22章 再びふくろう便 6
「どうしたね?そんなに浮かない顔をして」ダンブルドアが静かにいった。「昨夜のあとじゃ。自分を誇りに思ってよいのではないかの」
「なんにもできませんでした」ハリーは苦いものを噛み締めるように言った。
「ペティグリューは逃げてしまいました」
「なんにもできなかったとな?」ダンブルドアの声は静かだ。
「ハリー、それどころか大きな変化をもたらしたのじゃよ。君は、真実を明らかにするのを手伝った。一人の無実の男を、恐ろしい運命から救ったのじゃ」
恐ろしい。何かがハリーの記憶を刺激した。
以前よりさらに偉大に、より恐ろしく……トレローニー先生の予言だ!
「ダンブルドア先生__きのう、『占い学』の試験を受けていたときに、トレローニー先生がとっても__とっても変になったんです」
「ほう?」ダンブルドアが言った。「アー__いつもよりもっと変にということかな?」
「はい……声が太くなって、目が白目になって、こう言ったんです……今夜、真夜中になる前、その召使いは自由の身となり、ご主人様のもとに馳せ参ずるであろう……こうも言いました。闇の帝王は、召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう」
ハリーはダンブルドアをじっと見上げた。
それから先生はまた、普通というか、元に戻ったんです。しかも自分が言ったことを何も覚えてなくて。あれは__あれは先生がほんとうの予言をしたんでしょうか?」
ダンブルドアは少し感心したような顔をした。
「これは、ハリー、トレローニー先生はもしかしたら、もしかしたのかも知れんのう」ダンブルドアは考え深げに言った。「こんなことが起ころうとはのう。これでトレローニー先生のほんとうの予言は全部で二つになった。給料を上げてやるべきかの……」
「でも__」ハリーは呆気にとられてダンブルドアを見た。
どうしてダンブルドアはこんなに平静でいられるんだろう?
「でも__シリウスとルーピン先生がペティグリューを殺そうとしたのに、僕が止めたんです!もし、ヴォルデモートが戻ってくるとしたら、僕の責任です!」
「いや、そうではない」ダンブルドアが静かに言った。
「『逆転時計』の経験で、ハリー、君は何かを学ばなかったかね?我々の行動の因果というものは、常に複雑で、多様なものじゃ。だから、未来を予測すると言うのは、まさに非常に難しいことなのじゃよ……。トレローニー先生は__おお、先生に幸いあれかし__その生き証人じゃ。君は実に気高いことをしたのじゃ。ペティグリューの命を救うという」
「でも、それがヴォルデモートの復活につながるとしたら!__」
「ペティグリューは君に命を救われ、恩を受けた。君は、ヴォルデモートのもとに、君に借りのある者を腹心として送り込んだのじゃ。魔法使いが命を救うとき、二人の間にある種のきずなが生まれる……。ヴォルデモートが果たして、ハリー・ポッターに借りのある者を、自分の召使いとして望むかどうか疑わしい。わしの考えはそうはずれておらんじゃろ」
「僕、ペティグリューとの絆なんて、ほしくない!あいつは僕の両親を裏切った!」
「これはもっとも深淵で不可思議な魔法じゃよ。ハリー、わしを信じるがよい……いつか必ず、ペティグリューの命を助けてほんとうによかったと思う日が来るじゃろう」
ハリーにはそんな日が来るとは思えなかった。ダンブルドアはそんなハリーの思いを見通しているようだった。
「ハリー、わしは君の父君をよう知っておる。ホグワーツ時代もそのあともな」ダンブルドアがやさしく言った。「君の父君も、きっとペティグリューを助けたに違いない。わしには確信がある」
ハリーは目を上げた。ダンブルドアなら笑わないだろう__ダンブルドアになら話せる……。
「きのうの夜……僕、守護霊を創り出したのは、僕の父さんだと思ったんです。あの、湖のむこうに僕自身の姿を見たときのことです……僕、父さんの姿を見たと思ったんです」
「無理もない」ダンブルドアの声はやさしかった。
「もう聞き飽きたかも知れんがの、君は驚くほどジェームズに生き写しじゃ。ただ、君の目だけは……母君の目じゃ」
ハリーは頭を振って呟いた。
「あれが父さんだと思うなんて、僕、どうかしてた。だって、父さんは死んだってわかっているのに」
「愛する人が死んだとき、その人は永久に我々のそばを離れると、そう思うかね?大変な状況にあるとき、いつにも増して鮮明に、その人たちのことを思い出しはせんかね?
君の父君は、君の中に生きておられるのじゃ、ハリー。そして、君がほんとうに父親を必要とするときに、もっともはっきりとその姿を顕すのじゃ。
そうでなければ、どうして君が、あの守護霊を創り出すことができたじゃろう?プロングズは昨夜、再び駆けつけてきたのじゃ」
ダンブルドアの言うことを呑み込むのに、一時が必要だった。
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