第11章 ホグワーツ特急に乗って 5
シェーマスはまだアイルランドの緑のロゼットをつけていた。魔法が消えかけているらしく、「トロイ!マレット!モラン!」とまだキーキーさけんではいるが、弱々しく疲れたかけ声になっていた。
三十分もすると、延々と続くクィディッチの話に飽きて、ハーマイオニーは再び「基本呪文集・四学年用」に没頭し、「呼び寄せ呪文」を覚えようとしはじめた。
ネビルは友達が試合の様子を思い出して話しているのを羨ましそうに聞いていた。
「ばあちゃんが行きたくなかったんだ」ネビルがしょげた。
「切符を買おうとしなかったし。でも、すごかったみたいだね」
「そうだ」ロンが言った。「ネビル、これ見ろよ……」
荷物棚のトランクをゴソゴソやって、ロンはビクトール・クラムのミニチュア人形を引っ張り出した。
「う、わーっ」
ロンが、ネビルのぽっちゃりした手にクラム人形をコトンと落としてやると、ネビルは羨ましそうな声をあげた。
「それに、僕たち、クラムをすぐそばで見たんだぞ」ロンが言った。
「貴賓席だったんだ__」
「君の人生最初で最後のな、ウィーズリー」
ドラコ・マルフォイがドアのところに現れた。その後ろには、腰巾着のデカぶつ暴漢、クラッブとゴイルが立っていた。二人とも、この夏の間に30センチは背が伸びたように見えた。
ディーンとシェーマスがコンパートメントのドアをきちんと閉めていなかったので、こちらの会話が筒抜けだったらしい。
「マルフォイ、君を招いた覚えはない」ハリーが冷ややかに言った。
「ウィーズリー……なんだい、そいつは?」
マルフォイはピッグウィジョンの籠を指差した。ロンのドレスローブの袖が籠からぶら下がり、列車が揺れるたびにユラユラして、黴の生えたようなレースがいかにも目立った。
ロンはローブが見えないように隠そうとしたが、マルフォイのほうが早かった。袖をつかんで引っ張った。
「これを見ろよ!」
マルフォイがロンのローブを吊るし上げ、狂喜してクラッブとゴイルに見せた。
「ウィーズリー、こんなのをほんとうに着るつもりじゃないだろうな?言っとくけど__1890年代に流行した代物だ……」
「糞食らえ!」
ロンはローブと同じ顔色になって、マルフォイの手からローブをひったくった。マルフォイが高々と嘲笑い、クラッブとゴイルはバカ笑いした。
「それで……エントリーするのか、ウィーズリー?頑張って少しは家名を上げてみるか?賞金もかかっているしねぇ……勝てば少しはましなローブが買えるだろうよ……」
「何を言ってるんだ?」ロンが噛みついた。
「エントリーするのかい?」マルフォイがくり返した。
「君はするだろうねぇ、ポッター。見せびらかすチャンスは逃さない君のことだし?」
「何が言いたいのか、はっきりしなさい。じゃなきゃ出ていってよ、マルフォイ」
ハーマイオニーが「基本呪文集・四学年用」の上に顔を出し、つっけんどんに言った。
マルフォイの青白い顔に、得意げな笑みが広がった。
「まさか、君たちは知らないとでも?」マルフォイはうれしそうに言った。
「父親も兄貴も魔法省にいるのに、まるで知らないのか?驚いたね。父上なんか、もうとっくに僕に教えてくれたのに……コーネリウス・ファッジから聞いたんだ。しかし、まあ、父上はいつも魔法省の高官とつき合ってるし……たぶん、君の父親は、ウィーズリー、下っ端だから知らないのかもしれないな……そうだ……おそらく、君の父親の前では重要事項は話さないのだろう……」
もう一度高笑いすると、マルフォイはクラッブとゴイルに合図して、三人ともコンパートメントを出ていった。
ロンが立ち上がってドアを力まかせに閉め、その勢いでガラスが割れた。
「ロンったら!」
ハーマイオニーが咎めるような声をあげ、杖を取り出して、「レバロ!直せ!」と唱えた。
粉々のガラスの破片が飛び上がって一枚のガラスになり、ドアの枠にはまった。
「フン、やつはなんでも知ってて、僕たちはなんにも知らないって、そう思わせてくれるじゃないか……」
ロンが歯噛みした。
「『父上はいつも魔法省の高官とつき合ってるし』……パパなんか、いつでも昇進できるのに……いまの仕事が気に入ってるだけなんだ……」
「そのとおりだわ」ハーマイオニーが静かに言った。
「マルフォイなんかの挑発に乗っちゃだめよ、ロン__」
「あいつが!僕を挑発?ヘヘンだ!」
ロンは残っている大鍋ケーキを一つ摘み上げ、潰してバラバラにした。
旅が終わるまでずっと、ロンの機嫌は直らなかった。制服のローブに着替えるときもほとんどしゃべらず、ホグワーツ特急が速度を落としはじめても、ホグズミードの真っ暗な駅に停車しても、まだしかめっ面だった。
デッキの戸が開いたとき、頭上で雷が鳴った。ハーマイオニーはクルックシャンクスをマントに包み、ロンはドレスローブをピッグウィジョンの籠の上に置きっぱなしにして汽車を降りた。外は土砂降りで、みんな背を丸め、目を細めて降りた。まるで頭から冷水をバケツで何杯も浴びせかけるように、雨は激しく叩きつけるように降っていた。
「やあ、ハグリッド!」
ホームのむこう端に立つ巨大なシルエットを見つけて、ハリーが叫んだ。
「ハリー、元気かぁー?」ハグリッドも手を振って叫び返した。
「歓迎会で会おう。みんな溺れっちまわなかったらの話だがなぁー!」
一年生は伝統に従い、ハグリッドに引率され、ボートで湖を渡ってホグワーツ城に入る。
「うぅぅぅ、こんなお天気のときに湖を渡るのはごめんだわ」
人波に混じって暗いホームをノロノロ進みながら、ハーマイオニーは身震いし、言葉には熱がこもった。
液の外にはおよそ百台の馬なしの馬車が待っていた。
ハリー、ロン、ハーマイオニーネビルは、一緒にそのうちの一台に、感謝しながら乗り込んだ。
ドアがピシャッと閉まり、まもなくゴトンと大きく揺れて動き出し、馬なし馬車の長い行列が、雨水を跳ね飛ばしながら、ガラガラと進んだ。
ホグワーツ城を目指して。
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