第5章 ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ 6
「ルードが、バーサは以前にも何度かいなくなったと言うのだ__もっとも、これがわたしの部下だったら、わたしは心配するだろうが……」
「まあ、バーサはたしかに救いようがないですよ」パーシーが言った。
「これまで何年も、部から部へとたらい回しにされて、役に立つというより厄介者だし……しかし、それでもバクマンはバーサを探す努力をすべきですよ。クラウチさんが個人的にも関心をお持ちで__バーサは一度うちの部にいたことがあるんで。
それに、僕はクラウチさんがバーサのことをなかなか気に入っていたのだと思うんですよ__それなのに、バグマンは笑うばかりで、バーサはたぶん地図を見まちがえて、アルバニアでなくオーストラリアに行ったのだろうって言うんですよ。しかし」
パーシーは、大げさなため息をつき、ニワトコの花のワインをグイッと飲んだ。
「僕たちの『国際魔法協力部』はもう手いっぱいで、他の部の捜索どころではないんですよ。ご存知のように、ワールドカップのすぐあとに、もう一つ大きな行事を組織するのでね」
パーシーはもったいぶって咳払いすると、テーブルの反対端のほうに目をやり、ハリー、ロン、ハーマイオニーを見た。
「お父さんは知っていますね、僕が言ってること」
ここでパーシーはちょっと声を大きくした。
「あの極秘のこと」
ロンはまたかという顔でハリーとハーマイオニーに囁いた。
「パーシーのやつ、仕事に就いてからずっと、なんの行事かって僕たちに質問させたくて、この調子なんだ。厚底鍋の展覧会かなんかだろ」
テーブルの真ん中で、ウィーズリーおばさんがビルのイヤリングのことで言い合っていた。最近つけたばかりらしい。
「……そんなとんでもない大きい牙なんかつけて、まったく、ビル、銀行でみんななんと言ってるの?」
「ママ、銀行じゃ、僕がちゃんとお宝を持ち込みさえすれば、だれも僕の服装なんか気にしやしないよ」ビルが辛抱強く話した。
「それに、あなた、髪もおかしいわよ」
ウィーズリーおばさんは杖をやさしくもてあそびながら言った。
「私に切らせてくれるといいんだけどねぇ……」
「あたし、好きよ」
ビルの隣に座っていたジニーが言った。
「ママったら古いんだから。それに、ダンブルドア先生のほうが断然長いわ……」
ウィーズリーおばさんの隣で、フレッド、ジョージ、チャーリーが、ワールドカップの話で持ち切りだった。
「絶対アイルランドだ」
チャーリーはポテトを口いっぱい頬張ったまま、モゴモゴ言った。
「準決勝でペルーをペチャンコにしたんだから」
「でも、ブルガリアにはビクトール・クラムがいるぞ」フレッドが言った。
「クラムはいい選手だが一人だ。アイルランドはそれが7人だ」
チャーリーがキッパリ言った。
「イングランドが勝ち進んでりゃなぁ。あれはまったく赤っ恥だった。まったく」
「どうしたの?」
ハリーが引き込まれて聞いた。プリベット通りでグズグズしている間、魔法界から切り離されていたことがとても悔やまれた。
ハリーはクィディッチに夢中だった。グリフィンドール・チームでは一年生のときからずっとシーカーで、世界最高の競技用箒、ファイアボルトを持っていた。
「トランシルバニアにやられた。390対10だ」
チャーリーががっくりと答えた。
「なんてざまだ。それからウェールズはウガンダにやられたし、スコットランドはルクセンブルクにボロ負けだ」
庭が暗くなってきたので、ウィーズリーおじさんが蝋燭を作り出し、灯りを点けた。それからデザート__手作りのストロベリー・アイスクリームだ。
みんなが食べ終わるころ、夏の蛾がテーブルの上を低く舞い、芝草とスイカズラの香りが暖かい空気を満たしていた。
ハリーはとても満腹で、平和な気分に満たされ、クルックシャンクスに追いかけられてゲラゲラ笑いながらバラの茂みを逃げ回っている数匹の庭小人を眺めていた。
ロンがテーブルをずっと見渡し、みんなが話に気を取られているのを確かめてから、低い声でハリーに聞いた。
「それで__シリウスから、近ごろ便りはあったのかい?」
ハーマイオニーが振り向いて聞き耳を立てた。
「うん」ハリーもこっそり言った。
「二回あった。元気みたいだよ。僕、おととい手紙を書いた。ここにいる間に返事が来るかもしれない」
ハリーは突然シリウスに手紙を書いた理由を思い出した。そして、一瞬、ロンとハーマイオニーに傷痕がまた痛んだこと、悪夢で目が覚めたことを打ち明けそうになったが……いまは二人を心配させたくなかった。ハリー自身がとても幸せで平和な気持なのだから。
「もうこんな時間」
ウィーズリーおばさんが腕時計を見ながら急に言った。
「みんなもう寝なくちゃ。全員よ。ワールドカップに行くのに、夜明け前に起きるんですからね。ハリー、学用品のリストを置いていってね。明日、ダイアゴン横丁で買ってきてあげますよ。みんなの買い物もするついでがあるし。ワールドカップのあとは時間がないかもしれないわ。前回の試合なんか、五日間も続いたんだから」
「ワーッ__今度もそうなるといいな!」ハリーが熱くなった。
「あー、僕は逆だ」パーシーがしかつめらしく言った。
「五日間もオフィスを空けたら、未処理の書類の山がどんなになっているかと思うとゾッとするね」
「そうとも。まただれかがドラゴンの糞を忍び込ませるかもしれないし。な、パース?」フレッドが言った。
「あれは、ノルウェーからの肥料のサンプルだった!」
パーシーが顔を真っ赤にして言った。
「僕への個人的なものじゃなかったんだ!」
「個人的だったとも」
フレッドが、テーブルを離れながらハリーに囁いた。
「俺たちが送ったのさ」
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