第8章 絶命日パーティ 6
吐き気のするような臭いだ。しゃれた銀の盆に置かれた魚は腐り、銀の丸盆に山盛りのケーキは真っ黒焦げ、スコットランドの肉料理、ハギスの巨大な塊には蛆がわいていた。厚切りリーズは毛が生えたように緑色のかびで覆われ、一段と高いところにある灰色の墓石の形をした巨大なケーキには、砂糖のかわりにコールタールのようなもので文字が書かれていた。
恰幅のよいゴーストがテーブルに近づき、身をかがめてテーブルを通り抜けながら、大きく口を開けて、異臭を放つ鮭の中を通り抜けるようにしたのを、ハリーは驚いてまじまじと見つめた。
「食べ物を通り抜けると味がわかるの?」ハリーがそのゴーストに聞いた。
「まあね」ゴーストは悲しげにそう言うとふわふわ行ってしまった。
「つまり、より強い風味をつけるために腐らせたんだと思うわ」
ハーマイオニーは物知り顔でそう言いながら、鼻をつまんで、腐ったハギスをよく見ようと顔を近づけた。
「行こうよ。気分が悪い」ロンが言った。
三人が向きを変えるか変えないうちに、小男がテーブルの下から突然スイーッと現れて、三人の目の前で空中に浮かんだまま停止した。
「やあ、ピーブズ」ハリーは慎重に挨拶した。
周りのゴーストは青白く透明なのに、ポルターガイストのピーブズは正反対だった。鮮やかなオレンジ色のパーティ用帽子をかぶり、くるくる回る蝶ネクタイをつけ、意地の悪そうな大きな顔いっぱいにニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「おつまみはどう?」
猫撫で声で、ピーブズが深皿に入ったカビだらけのピーナッツを差し出した。
「いらないわ」ハーマイオニーが言った。
「おまえがかわいそうなマートルのことを話してるの、聞いたぞ」
ピーブズの目は踊っていた。
「おまえ、かわいそうなマートルにひどいことを言ったなぁ」
ピーブズは深く息を吸い込んでから、吐き出すように喚いた。
「オーィ、マートル!」
「あぁ、ピーブズ、だめ。わたしが言ったこと、あの子に言わないで。じゃないと、あの子とっても気を悪くするわ」
ハーマイオニーは大慌てでささやいた。
「わたし、本気で言ったんじゃないのよ。わたし気にしてないわ。あの子が…あら、こんにちは、マートル」
ずんぐりした女の子のゴーストがスルスルとやってきた。ハリーがこれまで見た中で一番陰気くさい顔をしていた。その顔も、ダラーッと垂れた猫っ毛と、分厚い乳白色のメガネの陰に半分隠れていた。
「なんなの?」マートルが仏頂面で言った。
「お元気?」ハーマイオニーが無理に明るい声を出した。
「トイレの外でお会いできて、うれしいわ」
マートルはフンと鼻を鳴らした。
「ミス・グレンジャーがたった今おまえのことを話してたよぅ…」
ピーブズがいたずらっぽくマートルに耳打ちした。
「あなたのこと__ただ__今夜のあなたはとっても素敵って言ってだけよ」
ハーマイオニーがピーブズをにらみつけながら言った。
マートルは「嘘でしょう」という目つきでハーマイオニーを見た。
「あなた、わたしのことからかってたんだわ」
むこうが透けて見えるマートルの小さな目から銀色の涙が見る見る溢れてきた。
「そうじゃない__ほんとよ__わたし、さっき、マートルが素敵だって
言ってたわよね?」
ハーマイオニーはハリーとロンの脇腹を痛いほど小突いた。
「ああ、そうだとも」
「そう言ってた…」
「嘘言ってもダメ」
マートルは喉が詰まり、涙が滝のように頬を伝った。ピーブズはマートルの肩越しに満足げにケタケタ笑っている。
「みんなが陰で、わたしのことなんて呼んでるか、知らないとでも思ってるの?太っちょマートル、ブスのマートル、惨めや・うめき屋・ふさぎ屋マートル!」
「抜かしたよぅ、にきび面ってのを」ピーブズがマートルの耳元でヒソヒソと言った。
「嘆きのマートル」は途端に苦しげにしゃくりあげ、地下牢から逃げるように出て行った。ピーブズはカビだらけのピーナッツをマートルにぶっつけて、「にきび面!にきび面!」と叫びながらマートルを追いかけて行った。
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