第8章 クィディッチ・ワールドカップ 7
トロイが競技場を一周するウイニング飛行をしているところで、ハーマイオニーはピョンピョン飛び上がりながら、トロイに向かって両手を大きく振っていた。
ハリーは万眼鏡をずらして外を見た。サイドラインの外側で試合を見ていたレプラコーンが、またもや空中に舞い上がり、輝く巨大なシャムロックを形作った。
ピッチの反対側で、ヴィーラが不機嫌な顔でそれを見ていた。
ハリーは自分に腹を立てながらスピードのダイヤルを元に戻した。そのとき、試合が再開された。
ハリーもクィディッチについてはいささかの知識があったので、アイルランドのチェイサーたちが飛び切りすばらしいことがわかった。
一糸乱れぬ連係プレー。まるで互いの位置関係で互いの考えを読み取っているかのようだった。
ハリーの胸の緑のロゼットが、甲高い声でひっきりなしに三人の名を呼んだ。
「トロイ__マレット__モラン!」
最初の10分で、アイルランドはあと二回得点し、30対0と点差を広げた。
緑一色のサポーターたちから、雷鳴のような歓声と嵐のような拍手が沸き起こった。
試合運びがますます速くなり、しかも荒っぽくなった。ブルガリアのビーター、ボルコフとボルチャノフは、アイルランドのチェイサーに向かって思い切り激しくブラッジャーを叩きつけ、三人の得意技を封じはじめた。
チェイサーの結束が二度も崩されてバラバラにされた。ついにイワノバが敵陣を突破、キーパーのライアンをもかわしてブルガリアが初のゴールを決めた。
「耳に指で栓をして!」
ウィーズリーおじさんが大声をあげた。ヴィーラが祝いの踊りを始めていた。
ハリーは目も細めた。ゲームに集中していたかった。
数秒後、ピッチをチラリと見ると、ヴィーラはもう踊りをやめ、クアッフルはまたブルガリアが持っていた。
「ディミトロフ!レブスキー!ディミトロフ!イワノバ__うおっ、これは!」
バグマンが唸り声をあげた。
十万人観衆が息を呑んだ。
二人のシーカー、クラムとリンチがチェイサーたちの真ん中を割って一直線にダイビングしていた。
その速いこと。飛行機からパラシュートなしに飛び降りたかのようだった。
ハリーは万眼鏡で落ちていく二人を追い、スニッチはどこにあるかと目を凝らした。
「地面に衝突するわ!」
隣でハーマイオニーが悲鳴をあげた。
半分当たっていた__ビクトール・クラムは最後の一秒で辛うじてグイッと箒を引き上げ、クルクルと螺旋を描きながら飛び去った。
ところがリンチは、ドスッという鈍い音をスタジアム中に響かせ、地面に衝突した。アイルランド側の席から大きな呻き声があがった。
「バカモノ!」ウィーズリーおじさんが呻いた。
「クラムはフェイントをかけたのに!」
「タイムです!」
バグマンが声を張りあげた。
「エイダン・リンチの様子を見るため、専門の魔法医が駆けつけています!」
「大丈夫だよ。衝突しただけだから!」
真っ青になってボックス席の手摺から身を乗り出しているジニーに、チャーリーが慰めるように言った。
「もちろん、それがクラムの狙いだけど……」
ハリーは急いで「再生」と「一場面ごと」のボタンを押し、スピード・ダイヤルを回し、再び万眼鏡を覗き込んだ。
ハリーは、クラムとリンチがダイブするところを、スローモーションで見た。レンズを横断して紫に輝く文字が現れた。「ウロンスキー・フェイント__シーカーを引っかける危険技」と読める。
間一髪でダイブから上昇に転ずるとき、全神経を集中させ、クラムの顔が歪むのが見えた。一方リンチはペシャンコになっていた。
ハリーはやっとわかった__クラムはスニッチを見つけたのではない。ただリンチについてこさせたかっただけなのだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?