第8章 絶命日パーティ 3
ピーブズはこの学校のポルターガイストだ。ニヤニヤしながら空中を漂い、大騒ぎを引き起こしたり、みんなを困らせるのを生き甲斐にしている厄介者だった。ハリーはピーブズが好きではなかったが、今はそのタイミングのよさに感謝しないわけにはいかなかった。ピーブズが何をしでかしたにせよ(あの音では今度は何かとても大きな物を壊したようだ)、フィルチがそちらに気を取られて、ハリーのことを忘れてくれるかもしれない。
フィルチが戻るまで待たなきゃいけないだろうな、と思いながら、ハリーは机の脇にあった虫食いだらけの椅子にドサッと腰掛けた。机の上には書きかけのハリーの書類の他に、もう一つ何かが置いてあった。大きな、紫色の光沢のある封筒で、表に銀文字で何か書いてある。ドアをチラリと見て、フィルチが戻ってこないことを確かめてから、ハリーは封筒を取り上げて文字を読んだ。
興味をそそられて、ハリーは封筒を指でポンとはじいて開け、中から羊皮紙の束を取り出した。最初のページには、丸みのある銀文字でこう書いてあった。
ハリーはおもしろくなって、封筒の中身をぱらぱらめくった__いったいどうしてフィルチはクイックスペル・コースを受けたいんだろう?彼はちゃんとした魔法使いではないんだろうか?ハリーは第一科を読んだ。「杖の持ち方(大切なコツ)」。そのとき、ドアの外で足を引きずるような音がして、フィルチが戻ってくるのがわかった。ハリーは羊皮紙を封筒に戻し、机の上に放り投げた。ちょうどドアが開いたときだった。
フィルチは勝ち誇っていた。
「あの『姿をくらます飾り棚』は非常に値打ちのあるものだった!」
フィルチはミセス・ノリスに向かっていかにも嬉しそうに言った。
「なあ、おまえ、今度こそピーブズめを追い出せるなぁ」
フィルチの目がまずハリーに、それから矢のようにクイックスペルの封筒へと移った。ハリーは「しまった」と思った。封筒は元の位置から六十センチほどずれたところに置かれていた。
フィルチの青白い顔が、レンガのように赤くなった。フィルチの怒りが津波のように押し寄せるだろうと、ハリーは身構えた。フィルチは机のところまで不格好に歩き、封筒をさっと取り、引き出しに放り込んだ。
「おまえ、もう…読んだか?__」フィルチがぶつぶつ言った。
「いいえ」ハリーは急いで嘘をついた。
フィルチはごつごつした両手を絞るように握り合わせた。
「おまえがわたしの個人的な手紙を読むとわかっていたら…わたし宛の手紙ではないが…知り合いのものだが…それはそれとして…しかし…」
ハリーは唖然としてフィルチを見つめた。フィルチがこんなに怒ったのは見たことがない。目は飛び出し、垂れ下がった頬の片方がピクピク痙攣して、タータンチェックの襟巻までも、怒りの形相を際立たせていた。
「もういい…行け…ひとことも漏らすな…もっとも…読まなかったのなら別だが…さあ、行くんだ。ピーブズの報告書を書かなければ…行け…」
なんて運がいいんだろうと驚きながら、ハリーは急いで部屋を出て、廊下を渡り、上の階へと戻った。なんの処罰もなしにフィルチの事務所を出られたなんて、開校以来の出来事かもしれない。
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