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第13章 グリフィンドール対レイブンクロー 2

ハリーは立ちすくんだ。心臓が肋骨をバンバン叩いている。
「どうかした?」ロンが聞いた。
ハリーが指差した。ロンは杖を取り出して「ルーモス、光よ!」と唱えた。

一条ひとすじの光が、芝生を横切って流れ、木の根元に当たって、枝を照らし出した。芽吹きの中に丸くなっているのは、クルックシャンクスだった。
「うせろ!」
ロンは吼えるような声でそう言うと、かがんで芝生に落ちていた石をつかんだ。
しかし、何もしないうちにクルックシャンクスは長いオレンジ色の尻尾をシュッと一振りして消えてしまった。
「見たか?」ロンは石をポイッと捨て、怒り狂って言った。
「ハーマイオニーはいまでもあいつを勝手にフラフラさせておくんだぜ__おそらく鳥を二、三羽食って、前に食っておいたスキャバーズをしっかり胃袋に流し込んだ、ってとこだ……」
ハリーは何も言わなかった。
安心感が体中にみ渡り、深呼吸した。一瞬、あの目は死神犬グリムの目に違いないと思ったのだ。
二人はまた城に向かって歩き出した。恐怖感に捕らわれたことがちょっと恥ずかしく、ハリーはそのことをロンに一言も言わなかった__その上、灯りの煌々こうこうともる玄関ホールに着くまで、ハリーは右も左もみなかった。


翌朝、ハリーは同室の寮生に伴われて朝食に下りていった。みんな、ファイアボルトは名誉の護衛がつくにあたいすると思ったらしい。
ハリーが大広間に入ると、みんなの目がファイアボルトに向けられ、興奮したささやき声があちこちから聞こえた。
スリザリン・チームが全員かみなりに打たれたような顔をしたので、ハリーは大満足だった。
「やつの顔を見た?」
ロンがマルフォイの方を振り返って、狂喜きょうきした。
「信じられないって顔だ!すっごいよ!」
ウッドもファイアボルトの栄光の輝きにひたっていた。
「ハリー、ここに置けよ」
ウッドはファイアボルトをテーブルの真ん中に置き、めいの刻印されている方を丁寧に上に向けた。
レイブンクローやハッフルパフのテーブルからは、つぎつぎとみんなが見に来た。
セドリック・ディゴリーは、ハリーのところにやってきて、ニンバスのかわりにこんなすばらしい箒を手に入れておめでとうと祝福した。パーシーのガールフレンドでレイブンクローのペネロピー・クリアウォーターは、ファイアボルトを手に取ってみてもいいかと聞いた。
「ほら、ほら、ペニー、壊すつもりじゃないだろうな」
ペネロピーがファイアボルトをとっくり見ていると、パーシーは元気よく言った。
「ペネロピーと僕とで賭けたんだ」パーシーがチームに向かって言った。「試合の勝敗に金貨十ガリオン賭けたぞ!」
ペネロピーはファイアボルトをテーブルに置き、ハリーに礼を言って自分のテーブルに戻った。
「ハリー__絶対勝てよ」パーシーがせっぱつまったようにささやいた。「僕、十ガリオンなんて持ってないんだ__うん、いま行くよ!ペニー!」そしてパーシーはあたふたとペネロピーのところへ行き、一緒にトーストを食べた。

「その箒、乗りこなす自信があるのかい、ポッター?」冷たい、気取った声がした。
ドラコ・マルフォイが、近くで見ようとやってきた。クラッブとゴイルがすぐ後ろにくっついている。
「ああ、そう思うよ」ハリーがさらりと言った。
「特殊機能がたくさんあるんだろう?」マルフォイの目が、意地悪く光っている。「パラシュートがついてないのが残念だなぁ__吸魂鬼ディメンターがそばまで来たときのためにね」
クラッブとゴイルがクスクス笑った。
「君こそ、もう一本手をくっつけられないのが残念だな、マルフォイ」ハリーが言った。「そうすりゃ、その手がスニッチを捕まえてくれるかもしれないのに」
グリフィンドール・チームが大声で笑った。
マルフォイの薄青い目が細くなり、それから、肩をいからせてゆっくりと立ち去った。マルフォイがスリザリン・チームのところに戻ると、選手全員が額を寄せ合った。マルフォイに、ハリーの箒が本物のファイアボルトだったかどうかを尋ねているに違いない。

11時15分前、グリフィンドール・チームはロッカー・ルームに向かって出発した。天気は、対ハッフルパフ戦のときとはまるで違う。カラリと晴れ、ひんやりとした日で、弱い風が吹いている。
今回は視界の問題はまったくないだろう。ハリーは神経がピリピリしてはいたが、クィディッチの試合だけが感じさせてくれる、あの興奮を感じはじめていた。
学校中が競技場の観客席に向かう音が聞こえてきた。
ハリーは黒のローブを脱ぎ、ポケットから杖を取り出し、クィディッチ・ユニフォームの下に着るTシャツの胸元に差し込んだ。使わないですめばいいのにと思った。
急に、ルーピン先生は観客の中で見守っているだろうか、とも思った。
「何をすべきか、わかってるな」
選手がもうロッカー・ルームから出ようというときに、ウッドが言った。
「この試合に負ければ、我々は優勝戦線から脱落だ。とにかく__とにかく、昨日の練習通りに飛んでくれ。そうすりゃ、いただきだ!」

フィールドに出ると、割れるような拍手が沸き起こった。レイブンクロー・チームはブルーのユニフォームを着て、もうフィールドの真ん中で待っていた。
シーカーのチョウ・チャンがただ一人の女性だ。ハリーより頭一つ小さい。
ハリーは緊張していたのに、チョウ・チャンがとてもかわいいことに気づかないわけにはいかなかった。
キャプテンを先頭に選手がずらりと並んだとき、チョウ・チャンがハリーにニッコリした。とたんにハリーの胃のあたりがかすかに震えた。これは緊張とは無関係だとハリーは思った。

「ウッド、デイビス、握手して」
フーチ先生がキビキビと指示し、ウッドはレイブンクローのキャプテンと握手した。
「箒に乗って……ホイッスルの合図を待って……さーん__にー__いちっ!」
ハリーは地を蹴った。ファイアボルトはほかのどの箒よりも早く、高く上昇した。


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