見出し画像

第21章 ハーマイオニーの秘密 9

「どこじゃ?」委員会のメンバーのひょろひょろした声がした。
「ここに繋がれていたんだ!俺は見たんだ!ここだった!」死刑執行人がカンカンに怒った。
「これは異なこと」ダンブルドアが言った。どこかおもしろがっているような声だった。
「ビーキー!」ハグリッドが声をつまらせた。

シュッという音に続いて、ドサッと斧を振り下ろす音がした。
死刑執行人が癇癪かんしゃくを起して斧を柵に振り下ろしたらしい。それから吼えるような声がした。そして、前の時には聞こえなかったハグリッドの言葉が、すすり泣きに混じって聞こえてきた。
「いない!いない!よかった。かわいい嘴のビーキー、いなくなっちまった!きっと自分で自由になったんだ!ビーキー!賢いビーキー!」

バックビークは、ハグリッドのところに行こうとして綱を引っぱりはじめた。ハリーとハーマイオニーは綱を握り直し、踵が森の土にめり込むほど足を踏ん張ってバックビークを押さえた。

「誰かが綱を解いて逃がした!」死刑執行人が歯噛はがみした。「探さなければ。校庭や森や__」
「マクネア、バックビークが盗まれたのなら、盗人はバックビークを歩かせて連れていくと思うかね?」
ダンブルドアはまだおもしろがっているような声だった。
「どうせなら、空を探すがよい……ハグリッド、お茶を一杯いただこうかの。ブランディをたっぷりでもよいの」
「は__はい、先生さま」ハグリッドはうれしくて力が抜けたようだった。「お入りくだせえ、さあ……」

ハリーとハーマイオニーはじっと耳をそばだてた。足音が聞こえ、死刑執行人がブツブツ悪態をつくのが聞こえ、戸がバタンと閉まり、それから再び静寂が訪れた。

「さあ、どうする?」ハリーが周りを見回しながら囁いた。
「ここに隠れていなきゃ」ハーマイオニーは張りつめているようだった。
「みんなが城に戻るまで待たないといけないわ。それから、バックビークに乗ってシリウスのいる部屋の窓まで飛んでいっても安全だ、というまで待つの。
シリウスはあと二時間ぐらいしないとそこにはいないのよ……ああ、とても難しいことだわ……」
ハーマイオニーは振り返って、恐々こわごわ森の奥を見た。太陽がまさに沈もうとしていた。

「移動しなくちゃ」ハリーはよく考えて言った。「『暴れ柳』が見えるところにいないといけないよ。じゃないと、何が起こっているのかわからなくなるし」
「オッケー」ハーマイオニーがバックビークの手綱をしっかり握りながら言った。
「でも、ハリー、忘れないで……私たち、誰にも見られないようにしないといけないのよ」
暗闇がだんだん色濃く二人を包む中、二人は森のすそに沿って進み、「柳」が垣間見える木立の陰に隠れた。

「ロンが来た!」突然ハリーが声をあげた。
黒い影が、芝生を横切って駆けてくる。その声が静かな夜の空気を震わせた。

「スキャバーズから離れろ__離れるんだ__スキャバーズこっちへおいで__」
それから、どこからともなく、もう二人の姿が現れるのが見えた。ハリー自身とハーマイオニーがロンを追ってくる。そしてロンがスライディングするのを見た。
「捕まえた!とっとと消えろ、いやな猫め__」
「今度はシリウスだ!」ハリーが言った。「柳」の根元から、大きな犬の姿が躍り出た。犬がハリーを転がし、ロンをくわえるのを二人は見た……。

「ここから見てると、よけいひどく見えるよね?」
ハリーは犬がロンを木の根元に引きずり込むのを眺めながら言った。
「アイタッ__見てよ、僕、いま、木に殴られた__君も殴られたよ__変てこな気分だ__」
「暴れ柳」はギシギシと軋み、低いほうの枝を鞭のように動かしていた。二人は自分たち自身が木の幹に辿り着こうとあちこち走り回るのを見ていた。そして、木が動かなくなった。
「クルックシャンクスがあそこで木のコブを押したんだわ」ハーマイオニーが言った。
「僕たちが入っていくよ……」ハリーが呟いた。「僕たち、入ったよ」

みんなの姿が消えたとたん、「柳」はまた動き出した。その数秒後、二人はすぐ近くで足音を聞いた。
ダンブルドア、マクネア、ファッジ、それに年老いた委員会のメンバーが城へ戻るところだった。
「私たちが地下通路に降りたすぐあとだわ!あのときダンブルドアが一緒に来てくれてさえいたら……」
ハーマイオニーが言った。
「そしたら、マクネアもファッジも一緒についてきてたよ」ハリーが苦々し気に言った。
「賭けてもいいけど、ファッジは、シリウスをその場で殺せって、マクネアに指示したと思うよ」

四人が城の階段を上って見えなくなるまで、二人は見つめていた。しばらくの間、あたりには誰もいなかった。
そして__。


いいなと思ったら応援しよう!