第21章 ハーマイオニーの秘密 13
二人は空行く雲が湖に映るさまを見ながら、ひたすら待った。周りの茂みが夜風にサヤサヤと囁き、バックビークは退屈して、また虫ほじりを始めた。
「シリウスはもう上に行ったと思う?」ハリーが時計を見ながら言った。そして城を見上げ、西の塔の右からの窓の数を数えはじめた。
「見て!」ハーマイオニーが囁いた。「あれ、誰かしら?お城から出てくるわ!」
ハリーは暗闇を透かして見た。
闇の中を、男が一人、急いで校庭を横切り、どこかの門に向かっている。ベルトのところで何かがキラッと光った。
「マクネア!死刑執行人だ!吸魂鬼を迎えにいくところだ。いまだよ、ハーマイオニー__」
ハーマイオニーがバックビークの背に両手をかけ、ハリーが手を貸してハーマイオニーを押し上げた。
それからハリーは灌木の低い枝に脚をかけ、ハーマイオニーの前に跨った。ハリーはバックビークの綱を手繰りよせ、バックビークの首の後ろに一度回してから首輪の反対側に結びつけ、手綱のようにしつらえた。
「いいかい?」ハリーが囁いた。「僕につかまるといい__」
ハリーはバックビークの脇腹を踵で小突いた。
バックビークは闇を裂いて高々と舞い上がった。
ハリーはその脇腹をしっかり挟んでいた。巨大な翼が自分の膝下で力強く羽ばたくのを感じた。
ハーマイオニーはハリーの腰にピッタリしがみついていた。
「ああ、ダメ__いやよ__ああ、私、ほんとに、これ、いやだわ__」
ハーマイオニーがそう呟くのが聞こえた。
ハリーはバックビークを駆り立てた。音もなく、二人は城の上階へと近づいていた……。
手綱をグイッと引くと、バックビークが向きを変えた。ハリーはつぎつぎとそばを通り過ぎる窓を数えようとした__。
「ドウドウ!」ハリーは力のかぎり手綱を引き締めた。
バックビークは速度を落とし、二人は空中で停止した。ただ、バックビークは空中に浮かんでいられるように翼を羽ばたかせ、そのたびに上に下にと、一、二メートル揺らぎはしたが。
「あそこだ!」窓に沿って上に浮き上がったときに、ハリーはシリウスを見つけた。バックビークの翼が下がったとき、ハリーは手を伸ばし、窓ガラスを強く叩くことができた。
ブラックが顔を上げた。あっけに取られて口を開くのが見えた。
ブラックは弾けるように椅子から立ち上がり、窓際に駆けよって開けようとしたが、鍵がかかっていた。
「退がって!」ハーマイオニーが呼びかけ、杖を取り出した。左手でしっかりとハリーのローブをつかまえたままだ。
「アロホモラ!」
窓がパッと開いた。
「ど__どうやって__?」ブラックはヒッポグリフを見つめながら、声にならない声で聞いた。
「乗って__時間がないんです」
ハリーはバックビークの滑らかな首の両脇をしっかりと押さえつけ、その動きを安定させた。
「ここから出ないと__吸魂鬼がやってきます。マクネアが呼びにいきました」
ブラックは窓枠の両端に手をかけ、窓から頭と肩とを突き出した。やせ細っていたのが幸いだった。
すぐさま、ブラックは片脚をバックビークの背中にかけ、ハーマイオニーの後ろに跨った。
「よーし、バックビーク、上昇!」ハリーは手綱を一振りした。「塔の上まで__行くぞ!」
ヒッポグリフはその力強い翼を大きく羽ばたかせ、西の塔のてっぺんまで、三人は再び高々と舞い上がった。
バックビークは軽い爪音をたてて胸壁に囲まれた塔頂に降り立ち、ハリーとハーマイオニーはすぐさまその背中から滑り降りた。
「シリウス、もう行って。早く」息を切らしながらハリーが言った。「みんなが間もなくフリットウィック先生の事務所にやってくる。あなたがいないことがわかってしまう」
バックビークは首を激しく振り、石の床に爪を立てて引っ掻いていた。
「もう一人の子は、どうした?」シリウスが急き込んで聞いた。
「大丈夫__まだ気を失ったままです。でも、マダム・ポンフリーが治してくださるって言いました。早く__行って!」
しかし、ブラックはまだじっとハリーを見下ろしたままだった。
「なんと礼を言ったらいいのか__」
「行って!」ハリーとハーマイオニーが同時に叫んだ。
ブラックはバックビークを一回りさせ、空の方に向けた。
「また会おう」ブラックが言った。「君は__ほんとうに、お父さんの子だ。ハリー……」
ブラックはバックビークのわき腹を踵で締めた。
巨大な両翼が再び振り上げられ、ハリーとハーマイオニーは飛び退いた……ヒッポグリフが飛翔した……乗り手とともに、ヒッポグリフの姿がだんだん小さくなっていくのを、ハリーはじっと見送った……やがて雲が月にかかった……二人は行ってしまった。
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