第9章 恐怖の敗北 6
教室まで声が届かないところまでくると、みんな堰を切ったように、スネイプ攻撃をぶちまけた。
「いくらあの授業の先生になりたいからといって、スネイプはほかの『闇の魔術に対する防衛術』の先生にあんなふうだったことはないよ。いったいルーピンになんの恨みがあるんだろう?例の『まね妖怪』のせいだと思うかい?」ハリーはハーマイオニーに言った。
「わからないわ」ハーマイオニーが沈んだ口調で答えた。
「でも、ほんとに、早くルーピン先生がお元気になってほしい…」
五分後にロンが追いついてきた。カンカンに怒っている。
「聞いてくれよ。あの×××」(ロンがスネイプを「×××」と呼んだので、ハーマイオニーは「ロン!」と叫んだ)「×××が僕に何をさせると思う?医務室のおまるを磨かせられるんだ。魔法なしだぜ!」ロンは拳を握り締め、息を深く吸い込んだ。
「ブラックがスネイプの研究室に隠れててくれたらなぁ。な?そしたらスネイプを始末してくれたかもしれないよ!」
つぎの日、ハリーは早々と目が覚めた。まだ外は暗かった。
一瞬、風の唸りで目が覚めたかと思った。が、つぎの瞬間、首の後ろに冷たい風が吹きつけるのを感じて、ハリーはガバッと起き上がった__ポルターガイストのピーブズがすぐそばに浮かんでいて、ハリーの耳元に息を吹きつけていた。
「どうしてそんなことをするんだい?」ハリーは怒った。
ピーブズは頬を膨らませ、勢いよくもう一吹きし、ケタケタ笑いながら吹いた息の反動で後退して、部屋から出ていった。
ハリーは手探りで目覚まし時計を見つけ、時計を見た。四時半。ピーブズを罵りながら、ハリーは寝返りを打ち、眠ろうとした。しかし、いったん目覚めてしまうと、ゴロゴロという雷鳴や、城の壁を打つ風の音、遠くの「禁じられた森」の木々の軋み合う音が耳について振り払えない。
あと数時間で、ハリーはこの風を突いて、クィディッチのフィールドに出ていくのだ。ついにハリーは寝るのをあきらめ、起き上がって服を着た。
ニンバス2000を手にして、ハリーはそっと寝室を出た。
寝室のドアを開けたとたん、ハリーの足元を何かがかすった。間一髪、かがんで捕まえたのはクルックシャンクスのボサボサの尻尾だった。
そのまま部屋の外に引っ張り出した。「君のことをロンがいろいろ言うのは、たしかに当たってると思うよ」
ハリーは、クルックシャンクスを怪しむように話しかけた。
「ネズミならほかにたくさんいるじゃないか。そっちを追いかけろよ。さあ」
ハリーはクルックシャンクスを螺旋階段の方に押しやった。
「スキャバーズには手を出すんじゃないよ」
嵐の音は談話室の方がはっきり聞こえた。試合がキャンセルになると考えるほどハリーは甘くはなかった。嵐だろうが、雷だろうが、そんな些細なことでクィディッチが中止されたことはない。
しかし、ハリーの不安感は募った。ウッドが以前廊下で、あれがセドリック・ディゴリーだと教えてくれた。
五年生で、ハリーよりずっと大きかった。シーカーは軽くてすばやいのが普通だが、ディゴリーの重さはこの天候では有利かもしれない。吹き飛ばされてコースを外れる可能性が低いからだ。
ハリーは夜明けまで暖炉の前で時間をつぶし、ときどき立ち上がっては、性懲りもなく男子寮の階段に忍び寄るクルックシャンクスを押さえていた。
ずいぶんたってから、ハリーはもう朝食の時間だろうと思い、肖像画の穴を一人でくぐっていった。
「立て!かかってこい!腰抜けめ!」カドガン卿が喚いた。
「よしてくれよ」ハリーは欠伸で応じた。
オートミールをたっぷり食べると少し生き返った。トーストを食べはじめるころにはほかのチーム・メイトも全員現れた。
「今日はてこずるぞ」」ウッドはなんにも食べずにそう言った。
「オリバー、心配するのはやめて」アリシアがなだめるように言った。
「ちょっとぐらいの雨はへいちゃらよ」
しかし、雨は「ちょっとぐらい」どころではなかった。それでも、なにしろ大人気のクィディッチのことなので、学校中がいつものように試合を見に外に出た。
荒れ狂う風に向かってみんな頭を低く下げ、競技場までの芝生を駆け抜けたが、傘は途中で手からもぎ取られるように吹き飛ばされた。
ロッカールームに入る直前、マルフォイ、クラッブ、ゴイルが巨大な傘をさして競技場に向かいながら、ハリーを指差して笑っているのが見えた。
チーム全員が紅のユニフォームに着替えて、いつものように試合前のウッドの激励演説を待った。
しかし、演説はなしだった。ウッドは何度か話し出そうとしたが、何かを飲み込むような奇妙な音を出し、力なく頭を振り、みんなについてこいと合図した。
フィールドに出ていくと、風のものすごさに、みんな横ざまによろめいた。耳をつんざく雷鳴がまたしても鳴り渡り、観衆が声援していても、掻き消されて耳には入らなかった。
雨がハリーのメガネを打った。こんな中でどうやってスニッチを見つけられるというのか?
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