第21章 ハーマイオニーの秘密 8
ハリーには、小屋の周りの草むらがところどころ踏みつけられるのが見えたし、三組の足音が遠のいていくのが聞こえた。
自分と、ロンと、ハーマイオニーが行ってしまった……しかし、木々の陰に隠れている方のハリーとハーマイオニーは小屋の中で起こっていることを、半開きの裏戸を通して聞くことができた。
「獣はどこだ?」マクネアの冷たい声がする。
「外__外にいる」ハグリッドのかすれ声だ。
マクネアの顔がハグリッドの小屋の窓から覗き、バックビークをじっと見たので、ハリーは見えないように頭を引っ込めた。それからファッジの声が聞こえた。
「ハグリッド、我々は__その__死刑執行の正式な通知を読み上げねばならん。短くすますつもりだ。それから君とマクネアが書類にサインする。マクネア、君も聞くことになっている。それが手続きだ__」
マクネアの顔が窓から消えた。
いまだ。いましかない。
「ここで待ってて」ハリーがハーマイオニーに囁いた。「僕がやる」
再びファッジの声が聞こえてきたとき、ハリーは木陰から飛び出し、かぼちゃ畑の柵を飛び越え、バックビークに近づいた。
「『危険生物処理員会』は、ヒッポグリフのバックビーク、以後被告と呼ぶ、が、六月六日の日没時に処刑さるべしと決定した__」
瞬きをしないよう注意しながら、ハリーは以前に一度やったように、バックビークの荒々しいオレンジ色の目を見つめ、お辞儀した。
バックビークはうろこで覆われた膝を曲げていったん身を低くし、また立ち上がった。ハリーはバックビークを柵に縛りつけている綱を解こうとした。
「……死刑は斬首とし、委員会の任命する執行人、ワルデン・マクネアによって執行され……」
「バックビーク、来るんだ」ハリーが呟くように話しかけた。
「おいで、助けてあげるよ。そーっと……そーっと……」
「以下を証人とす。ハグリッド、ここに署名を……」
ハリーは全体重をかけて綱を引っ張ったが、バックビークは前足で踏ん張った。
「さあ、さっさと片付けましょうぞ」
ハグリッドの小屋から委員会のメンバーのひょろひょろした声が聞こえた。
「ハグリッド、君は中にいた方がよくないかの__」
「いんや、俺は__俺はあいつと一緒にいたい……あいつを独りぼっちにはしたくねえ__」
小屋の中から足音が響いてきた。
「バックビーク、動いてくれ!」ハリーが声を殺して促した。
ハリーはバックビークの首にかかった綱をグイッと引いた。ヒッポグリフは、イライラと翼を擦り合わせながら歩きはじめた。
森までまだ三メートルはある。ハグリッドの裏戸から丸見えだ。
「マクネア、ちょっと待ちなさい」ダンブルドアの声がした。「君も署名せねば」
小屋の足音が止まった。
ハリーが綱を手繰り込むと、バックビークは嘴をカチカチ言わせながら、少し足を速めた。
ハーマイオニーの青い顔が木の陰から突き出していた。
「ハリー、早く!」ハーマイオニーの口の形がそう言っていた。
ハリーにはダンブルドアが小屋の中でまだ話している声が聞こえていた。
もう一度綱をグイッと引いた。バックビークは諦めたように早足になった。やっと木立のところに着いた。
「早く!早く!」ハーマイオニーが木の陰から飛び出して、呻くように言いながら、自分も手綱を取り、全体重をかけてバックビークを急かした。
ハリーが肩越しに振り返ると、もう視界が遮られるところまで来ていた。
ハグリッドの裏庭はもう見えなくなっていた。
「止まって!」ハリーがハーマイオニーに囁いた。「みんなが音を聞きつけるかも__」
ハグリッドの裏戸がバタンと開いた。ハリー、ハーマイオニー、バックビークはじっと音を立てずに佇んだ。ヒッポグリフまで耳をそばだてているようだった。
静寂……そして__。