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第7章 穢れた血と幽かな声 8

「言ったわよ。でも、どういう意味だかわたしは知らない。もちろん、ものすごく失礼な言葉だということはわかったけど…」
「あいつの思いつくかぎり最悪の侮辱の言葉だ」ロンの顔がまた現れて絶句した。
「『穢れた血』って、マグルから生まれたって意味の__つまり両親とも魔法使いじゃない者を指す最低の汚らわしい呼び方なんだ。魔法使いの中には、たとえばマルフォイ一族みたいに、みんなが『純血』って呼ぶものだから、自分たちが誰よりも偉いって思っている連中がいるんだ」
ロンは小さなゲップをした。ナメクジが一匹だけ飛び出し、ロンの伸ばした手の中にスポッと落ちた。ロンはそれを洗面器に投げ込んでから話を続けた。
「もちろん、そういう連中以外は、そんなことまったく関係ないって知ってるよ。ネビル・ロングボトムを見てごらんよ__あいつは純血だけど、鍋を逆さまに火にかけたりしかねないぜ」
「それに、俺たちのハーマイオニーが使えねえ呪文は、今までにひとっつもなかったぞ」
ハグリッドが誇らしげに言ったので、ハーマイオニーはパーっと頬を紅潮させた。
「他人のことをそんなふうにののしるなんて、むかつくよ」
ロンは震える手で汗びっしょりの額を拭いながら話し続けた。
「『穢れた血』だなんて、まったく。卑しい血だなんて。狂ってるよ。どうせ今どき、魔法使いはほとんど混血なんだぜ。もしマグルと結婚してなかったら、僕たちとっくに絶滅しちゃってたよ」
ゲーゲーが始まり、またまたロンの顔がひょいと消えた。
「ウーム、そろや、ロン、やつに呪いをかけたくなるのも無理はねぇ」
大量のナメクジが、ドサドサと洗面器の底に落ちる音を、かき消すような大声でハグリッドが言った。
「だけんど、おまえさんの杖が逆噴射したのはかえってよかったかもしれん。ルシウス・マルフォイが、学校に乗り込んできおったかもしれんぞ、おまえさんがやつの息子に呪いをかけちまってたら。少なくともおまえさんは面倒に巻き込まれずにすんだっちゅうもんだ」
__ナメクジが次々と口から出てくるだけでも十分面倒だけど__とハリーは言いそうになったが、言えなかった。ハグリッドのくれた糖蜜ヌガーが上顎と下顎をセメントのようにがっちり接着してしまっていた。

「ハリー」ふいに思い出したようにハグリッドが言った。
「おまえさんにもちいと小言を言うぞ。サイン入りの写真を配っとるそうじゃないか。なんで俺に一枚くれんのかい?」
ハリーは怒りにまかせて、くっついた歯をぐいとこじ開けた。
「サイン入りの写真なんて、僕、配ってない。もしロックハートがまだそんなこと言いふらして…」
ハリーはむきになった。ふとハグリッドを見ると、笑っている。
「からかっただけだ」
ハグリッドは、ハリーの背中を優しくポンポン叩いた。おかげでハリーはテーブルの上に鼻から先につんのめった。
「おまえさんがそんなことをせんのはわかっとる。ロックハートに言ってやったわ。おまえさんはそんな必要ねえって。なんにもせんでも、おまえさんはやっこさんより有名だって」
「ロックハートは気に入らないって顔したでしょう」
ハリーは顎をさすりながら体を立て直した。
「あぁ、気に入らんだろ」ハグリッドの目がいたずらっぽくキラキラした。
「それから、俺はあんたの本などひとっつも読んどらんと言ってやった。そしたら帰って行きおった。ほい、ロン、糖蜜ヌガー、どうだ?」
ロンの顔がまた現れたので、ハグリッドがすすめた。
「いらない。気分が悪いから」ロンが弱々しく答えた。
「俺が育ててるモン、ちょいと見にこいや」
ハリーとハーマイオニーがお茶を飲み終わったのを見て、ハグリッドが誘った。

ハグリッドの小屋の裏にある小さな野菜畑には、ハリーが見たこともないような大きいかぼちゃが十数個あった。一つ一つが大岩のようだった。

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