第20章 吸魂鬼のキス 1
こんな奇妙な群れに加わったのはハリーにとって初めてだった。
クルックシャンクスが先頭に立って階段を下り、そのあとをルーピン、ペティグリュー、ロンが、まるでムカデ競争のようにつながって下りた。
シリウスがスネイプの杖を使ってスネイプ先生を宙吊りにし、不気味に宙を漂うスネイプ先生の爪先が、階段を一段下りるたびに階段にぶつかった。
ハリーとハーマイオニーがしんがりだった。
トンネルを戻るのが一苦労だった。ルーピン、ペティグリュー、ロンの組は横向きになって歩かざるをえなかった。ルーピンはペティグリューに杖を突きつけたままだ。
ハリーからは三人が一列になって歩きにくそうにトンネルを横這いしていくのが見えた。
先頭は相変わらずクルックシャンクスだ。ハリーはシリウスのすぐ後ろを歩いた。
スネイプがシリウスに宙吊りにされたまま、三人の前を漂っていたが、ガクリと垂れた頭が低い天井にぶつかってばかりいた。ハリーはシリウスがわざと避けないようにしているような気がした。
「これがどういうことなのか、わかるかい?」
トンネルをノロノロ進みながら、出し抜けにシリウスがハリーに話しかけた。
「ペティグリューを引き渡すということが」
「あなたが自由の身になる」
「そうだ……」
シリウスが続けた。
「しかし、それだけではない__誰かに聞いたかもしれないが__わたしは君の名付親でもあるんだよ」
「ええ、知っています」
「つまり……君の両親が、わたしを君の後見人に決めたのだ」
シリウスの声が緊張した。
「もし自分たちの身に何かあればと……」
ハリーはつぎの言葉を待った。
シリウスの言おうとしていることが、自分の考えていることと同じだったら?
「もちろん、君がおじさんやおばさんとこのまま一緒に暮らしたいというなら、その気持はよくわかるつもりだ。しかし……まあ……考えてくれないか。わたしの汚名が晴れたら……もし君が……別の家族がほしいと思うなら……」シリウスが言った。
ハリーの胸の奥で、何かが爆発した。
えっ?__あなたと暮らすの?」
思わずハリーは、天井から突き出している岩にいやというほど頭をぶっつけた。
「ダーズリー一家と別れるの?」
「むろん、君はそんなことは望まないだろうと思ったが」シリウスが慌てて言った。
「よくわかるよ。ただ、もしかしたらわたしと、と思ってね……」
「とんでもない!」ハリーの声は、シリウスに負けず劣らずかすれていた。
「もちろん、ダーズリーのところなんか出たいです!住む家はありますか?僕、いつ引っ越せますか?」
シリウスがくるりと振り返ってハリーを見た。
スネイプの頭が天井をゴリゴリ擦っていたが、シリウスは気にもとめない様子だ。
「そうしたいのかい?本気で?」
「ええ、本気です!」ハリーが答えた。
シリウスのげっそりした顔が、急に笑顔になった。
ハリーが初めて見る、シリウスのほんとうの笑顔だった。
その笑顔がもたらした変化は驚異的だった。骸骨のようなお面の後ろに十歳若返った顔が輝いて見えるようだった。ほんの一瞬、シリウスはハリーの両親の結婚式で快活にわらっていたあの人だとわかる顔になった。
トンネルの出口に着くまで、二人はもう何も話さなかった。クルックシャンクスが最初に飛び出した。木の幹のあのコブを押してくれたらしい。
ルーピン、ペティグリュー、ロンの一組が這い上がっていったが、獰猛な枝の音は聞こえてこなかった。
シリウスはまずスネイプを穴の外に送り出し、それから一歩下がって、ハリーとハーマイオニーを先に通した。
ついに全員が外に出た。
校庭はすでに真っ暗だった。明りといえば、遠くに見える城の窓からもれる灯だけだ。
無言で、全員が歩き出した。ペティグリューはゼイゼイと息をし、時折ヒーヒー泣いていた。
ハリーは胸がいっぱいだった。ダーズリー家を離れるんだ。父さん、母さんの親友だったシリウス・ブラックと一緒に暮らすんだ……ハリーはボーッとした……ダーズリー一家に、テレビに出ていたあの囚人と一緒に暮らすと言ったら、どうなるかな!
「ちょっとでも変なまねをしてみろ、ピーター」
前の方で、ルーピンが脅すように言った。ペティグリューの胸に、ルーピンの杖が横から突きつけられていた。
みんな無言でひたすら校庭を歩いた。窓の灯が徐々に大きくなってきた。
スネイプは顎をガクガクと胸にぶっつけながら相変わらず不気味に宙を漂い、シリウスの前を移動していた。
すろと、そのとき__。