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第21章 ハーマイオニーの秘密 3

ハリーはやっとのことで口いっぱいのチョコレートを飲み込み、また立ち上がった。
「ダンブルドア先生、シリウス・ブラックは__」
「なんてことでしょう!」マダム・ポンフリーは癇癪かんしゃくを起した。
「病棟をいったいなんだと思っているんですか?校長先生、失礼ですが、どうか__」
「すまないね、ポピー。だが、わしはミスター・ポッターとミス・グレンジャーに話があるんじゃ」
ダンブルドアが穏やかに言った。

「たったいま、シリウス・ブラックと話をしてきたばかりじゃよ__」
「さぞかし、ポッターに吹き込んだと同じお伽噺とぎばなしをお聞かせしたことでしょうな?」
スネイプが吐き棄てるように言った。
「ネズミがなんだとか、ペティグリューが生きているとか__」
「さよう、ブラックの話はまさにそれじゃ」
ダンブルドアは半月メガネの奥から、スネイプを観察していた。
「我輩の証言はなんの重みもないということで?」スネイプがうなった。
「ピーター・ペティグリューは『叫びの屋敷』にはいませんでしたぞ。校庭でも影も形もありませんでした」
「それは、先生がノックアウト状態だったからです!」ハーマイオニーが熱心に言った。
「先生はあとから来たので、お聞きになっていない__」
「ミス・グレンジャー。口出しするな!
「まあ、まあ、スネイプ」ファッジが驚いてなだめた。
「このお嬢さんは、気が動転しているのだから、それを考慮してあげないと__」
「わしは、ハリーとハーマイオニーと三人だけで話したいのじゃが」ダンブルドアが突然言った。
「コーネリウス、セブルス、ポピー__席をはずしてくれないかの」
「校長先生!」マダム・ポンフリーが慌てた。
「この子たちは治療が必要なんです。休息が必要で__」
ことは急をようする」ダンブルドアが言った。「どうしてもじゃ」
マダム・ポンフリーは口をきっと結んで、病棟の端にある自分の事務所に向かって大股で歩き、バタンと戸を閉めて出ていった。
ファッジはチョッキにぶら下げていた大きな金の懐中時計を見た。
吸魂鬼ディメンターがそろそろ着いたころだ。迎えに出なければ。ダンブルドア、上の階でお目にかかろう」
ファッジは病室の外でスネイプのためにドアを開けて待っていた。
しかし、スネイプは動かなかった。
「ブラックの話など、一言ひとことも信じてはおられないでしょうな?」
スネイプはダンブルドアを見据えたまま、囁くように言った。
「わしはハリーとハーマイオニーと三人だけで話したいのじゃ」ダンブルドアがくり返した。
スネイプがダンブルドアの方に一歩踏み出した。
「シリウス・ブラックは十六のときに、すでに人殺しの能力をあらわした」スネイプが声をひそめた。
「お忘れになってはいますまいな、校長?ブラックはかつて我輩を殺そうとしたことを、忘れてはいますまい?」
「セブルス、わしの記憶力は、まだ衰えてはおらんよ」ダンブルドアは静かに言った。

スネイプはきびすを返し、ファッジが開けて待っていたドアから肩をいからせて出ていった。
ドアが閉まると、ダンブルドアはハリーとハーマイオニーの方を向いた。
二人が同時に、せきを切ったように話し出した。
「先生、ブラックの言っていることはほんとうです__僕たち、ほんとうにペティグリューを見たんです__」
「__ペティグリューはルーピンが狼に変身したとき逃げたんです」
「ペティグリューはネズミです__」
「ペティグリューの前足の鉤爪、じゃなかった、指、それ、自分で切ったんです__」
「ペティグリューがロンを襲ったんです。シリウスじゃありません__」

しかし、ダンブルドアは手を上げて、洪水のような説明を制止した。
「今度は君たちが聞く番じゃ。頼むから、わしの言うことを途中で遮らんでくれ。なにしろ時間がないのじゃ」静かな口調だった。


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