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第15章 ボーバトンとダームストラング 5

ハリーもロンも冷淡だったのに、屋敷しもべ妖精の権利を追求するハーマイオニーの決意は、つゆほどもくじけはしなかった。
たしかに、二人ともS・P・E・Wバッジに二シックルずつ出したが、それはハーマイオニーを黙らせるためだけだった。
二人のシックルはどうやら無駄だったらしい。かえってハーマイオニーの鼻息を荒くしてしまった。
それからというもの、ハーマイオニーは二人にしつこく迫った。
まずは二人がバッジを着けるように言い、それからほかの生徒にもそうするように説得しなさいと言った。
ハーマイオニー自身も、毎晩グリフィンドールの談話室を精力的に駆け回り、みんなを追いつめては、その鼻先で寄付集めの空き缶を振った。

「ベッドのシーツを替え、暖炉の火を熾し、教室を掃除し、料理をしてくれる魔法生物たちが、無給で奴隷働きしているのを、みなさんご存知ですか?」
ハーマイオニーは激しい口調でそう言い続けた。

ネビルなど、何人かは、ハーマイオニーに睨みつけられるのがいやで二シックルを出した。
何人かは、ハーマイオニーの言うことに少し関心を持ったようだったが、それ以上積極的に運動にかかわることには乗り気ではなかった。
生徒の多くは、冗談扱いしていた。

ロンのほうは、おやおやと天井に目を向けた。
秋の陽光が、天井から降り注ぎ、みんなを包んでいた。
フレッドは急にベーコンを食べるのに夢中になった(双子は二人ともS・P・E・wバッジを買うことを拒否していた)。
一方、ジョージは、ハーマイオニーのほうに身を乗り出してこう言った。
「まあ、聞け、ハーマイオニー。君は厨房に下りていったことがあるか?」
「もちろん、ないわ」
ハーマイオニーがそっけなく答えた。
「学生が行くべき場所とはとても考えられないし__」
「俺たちはあるぜ」
ジョージはフレッドのほうを指差しながら言った。
「何度もある。食べ物を失敬しに。そして、俺たちは連中に会ってるが、連中は幸せなんだ。世界一いい仕事を持ってると思ってる__」
「それは、あの人たちが教育も受けてないし、洗脳されてるからだわ!」
ハーマイオニーが熱くなって話しはじめた。
そのとき突然、頭上でサーッと音がして、ふくろう便が到着したことを告げ、ハーマイオニーのそのあとの言葉は、羽音に飲み込まれてしまった。
急いで見上げたハリーは、ヘドウィグがこちらに向かって飛んでくるのを見つけた。
ハーマイオニーはぱっと話をやめた。
ヘドウィグがハリーの肩に舞い降り、羽を畳み、疲れた様子で脚を突き出すのを、ハーマイオニーもロンも心配そうに見つめた。

ハリーはシリウスの返事を引っ張るように外し、ヘドウィグにベーコンの外皮をやった。
ヘドウィグはうれしそうにそれをついばんだ。
フレッドとジョージが三校対抗試合の話に没頭していて安全なのを確かめ、ハリーはシリウスの手紙を、ロンとハーマイオニーにヒソヒソ声で読んで聞かせた。

無理するな、ハリー。
わたしはもう帰国して、ちゃんと隠れている。ホグワーツで起こっていることはすべて知らせてほしい。ヘドウィグは使わないように。
次々違うふくろうを使いなさい。わたしのことは心配せずに、自分のことだけを注意していなさい。君の傷痕についてわたしが言ったことを忘れないように。
             シリウス

「どうしてふくろうを次々取り替えなきゃいけないのかなあ」ロンが低い声で聞いた。
「ヘドウィグじゃ注意を引きすぎるからよ」
ハーマイオニーがすぐに答えた。
「目立つもの。白フクロウがシリウスの隠れ家に__どこだかは知らないけど__何度も何度も行ったりしてごらんなさい……だって、もともと白フクロウはこの国の鳥じゃないでしょ?」

ハリーは手紙を丸め、ローブの中に滑り込ませた。
心配事が増えたのか減ったのか、わからなかった。
とりあえず、シリウスがなんとか捕まりもせず戻ってきただけでも、上出来だとすべきなのだろう。
それに、シリウスが身近にいると思うと、心強いのも確かだった。
少なくとも、手紙を書くたびに、あんなに長く返事を待つ必要はないだろう。
「ヘドウィグ、ありがとう」
ハリーはヘドウィグを撫でてやった。
ヘドウィグはホーと眠そうな声で鳴き、ハリーのオレンジジュースのコップにちょっとくちばしを突っ込み、すぐまた飛びたった。
ふくろう小屋でぐっすり眠りたくて仕方がないに違いない。

その日は心地よい期待感があたりを満たしていた。
夕方にボーバトンとダームストラングからお客が到着することに気をとられ、だれも授業に身が入らない。
「魔法薬学」でさえ、いつもより三十分短いので、えやすかった。
早めの終業ベルが鳴り、ハリー、ロン、ハーマイオニーは急いでグリフィンドール塔に戻って、指示されていたとおりカバンと教科書を置き、マントを着て、また急いで階段を下り、玄関ホールに向かった。

各寮の寮監が、生徒たちを整列させていた。
「ウィーズリー、帽子が曲がっています」
マクゴナガル先生からロンに注意が飛んだ。
「ミス・パチル、髪についているバカげたものをお取りなさい」
パーバティは顔をしかめて、三つ編みの先につけた大きな蝶飾りを取った。
「ついておいでなさい」マクゴナガル先生が命じた。
「一年生が先頭……押さないで……」
みんな並んだまま正面の石段を下り、城の前に整列した。
晴れた、寒い夕方だった。
夕闇が迫り、禁じられた森の上に、青白く透き通るような月がもう輝きはじめていた。
ハリーは前から四列目に並び、ロンとハーマイオニーを両脇にして立っていたが、デニス・クリービーが、ほかの一年生たちに混じって、期待でほんとうに震えているのが見えた。

「まもなく六時だ」
ロンは時計を眺め、正門に続く馬車道を、遠くのほうまでじっと見た。

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