見出し画像

第14章 許されざる呪文 6

「来週の月曜」書きなぐりながらロンが読み上げた。
「火星と木星の『合』という凶事により、僕は咳が出はじめるだろう」
ここでロンはハリーを見た。
「あの先生のことだ__とにかく惨めなことをたくさん書け。舌なめずりして喜ぶぞ」
「よーし」
ハリーは、最初の苦労の跡をクシャクシャに丸め、ペチャクチャしゃべっている一年生の群れの頭越しに放って、暖炉の火に投げ入れた。
「オッケー……月曜日、僕は危うく__えーと__火傷やけどするかもしれない」
「うん、そうなるかもな」ロンが深刻そうに言った。
「月曜にはまたスクリュートのお出ましだからな。オッケー。火曜日、僕は……ウーム……」
「大切なものをなくす」
何かアイデアはないかと「未来の霧を晴らす」をパラパラめくっていたハリーが言った。
「いただきだ」ロンはそのまま書いた。
「なぜなら……ウーム……水星だ。君は、だれか友達だと思っていたやつに、裏切られることにしたらどうだ?」
「ウン……冴えてる……」
ハリーも急いで書き留めた。
「なぜなら……金星が第12宮に入る」
「そして水曜日だ。僕はけんかしてコテンパンにやられる」
「あぁぁー、僕もけんかにしようと思ってたのに。オッケー、僕は賭けに負ける」
「いいぞ、君は、僕がけんかに勝つほうに賭けてた……」

それから一時間、二人はでっち上げ運勢を(しかもますます悲劇的に)書き続けた。周りの生徒たちが一人、二人と寝室に上がり、談話室はだんだん人気がなくなった。
どこからかクルックシャンクスが現われ、二人のそばに来て、空いている椅子にひらりと飛び上がり、謎めいた表情でハリーの顔をじっと見た。
なんだか、二人がまじめに宿題をやっていないと知ったら、ハーマイオニーがこんな顔をするだろうというような目つきだ。

ほかにまだ使ってない種類の不幸が何かないだろうかと考えながら、部屋を見回すと、フレッドとジョージがハリーの目に入った。
壁際に座り込み、額を寄せ合い、羽根ペンを持って、一枚の羊皮紙を前に、何かに夢中になっている。
フレッドとジョージが隅に引っ込んで、静かに勉強しているなど、ありえないことだ。たいがい、なんでもいいから、真っただ中で、みんなの注目を集めて騒ぐのが好きなのだ。
羊皮紙一枚と取っ組んでいる姿は、なにやら秘密めいた匂いがした。
ハリーは、「隠れ穴」で、やはり二人が座り込んで何か書いていた姿を思い出した。そのときは、ウィーズリーウィザードウィーズの新しい注文書を作っているのだろうと思ったが、今度はそうでもなさそうだ。
もしそうなら、リー・ジョーダンも悪戯に一枚加わっていたに違いない。もしや、三校対抗試合に名乗りを上げることと関係があるのでは、とハリーは思った。

ハリーが見ていると、ジョージがフレッドに向かって首を横に振り、羽根ペンで何かを掻き消し、なにやら話している。ヒソヒソ声だが、それでも、ほとんど人気のない部屋ではよく聞こえてきた。
「だめだ……それじゃ、俺たちがやっこさんを非難してるみたいだ。もっと、慎重にやらなきゃ……」
ジョージがふとこっちを見て、ハリーと目が合った。
ハリーは曖昧に笑い、急いで運勢作業に戻った__ジョージに、盗み聞きしていたようにとられたくなかった。それからまもなく、双子は羊皮紙を巻き、「おやすみ」といって寝室に去った。

フレッドとジョージがいなくなってから10分もたったころ、肖像画の穴が開き、ハーマイオニーが談話室に這い登ってきた。
片手に羊皮紙を一束抱え、もう一方の手に箱を抱えている。箱の中身が歩くたびにカタカタ鳴った。クルックシャンクスが、背中を丸めてゴロゴロ喉を鳴らした。
「こんばんは」ハーマイオニーが挨拶した。
「ついにできたわ!」
「僕もだ!」ロンが勝ち誇ったように羽根ペンを放り出した。

ハーマイオニーは腰かけ、持っていたものを空いている肘掛椅子に置き、それからロンの運勢予言を引き寄せた。
「すばらしい一ヵ月とはいかないみたいですこと」
ハーマイオニーが皮肉たっぷりに言った。クルックシャンクスがその膝に乗って丸まった。
「まあね。少なくとも、前もってわかっているだけましさ」ロンは欠伸した。
「二回も溺れることになってるようよ」ハーマイオニーが指摘した。
「え?そうか?」
ロンは自分の予言をじっと見た。
「どっちか変えたほうがいいな。ヒッポグリフが暴れて踏み潰されるってことに」
「でっち上げだってことが見え見えだと思わない?」ハーマイオニーが言った。
「なにをおっしゃる!」ロンが憤慨するふりをした。
「僕たちは、屋敷しもべ妖精のごとく働いていたのですぞ!」
ハーマイオニーの眉がピクリと動いた。
「ほんの言葉のアヤだよ」ロンが慌てて言った。
ハリーも羽根ペンを置いた。まさに首を切られて自分が死ぬ予言を書き終えたのだ。
「中身は何?」ハリーが箱を指した。
「いまお聞きになるなんて、なんて間がいいですこと」
ロンを睨みつけながら、そう言うと、ハーマイオニーは蓋を開け、中身を見せた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?