第14章 許されざる呪文 7
箱の中には、色とりどりのバッジが50個ほど入っていた。みんな文字が書いてある。
S・P・E・W
「スピュー?」ハリーはバッジを一個取り上げ、しげしげと見た。
「何に使うの?」
「スピュー(反吐)じゃないわ」
ハーマイオニーがもどかしそうに言った。
「エス__ピー__イー__ダブリュー。つまり、エスは協会、ピーは振興、イーはしもべ妖精、ダブリューは福祉の頭文字。しもべ妖精福祉振興協会よ」
「聞いたことないなあ」ロンが言った。
「当然よ」ハーマイオニーは威勢よく言った。
「私が始めたばかりです」
「へえ?」ロンがちょっと驚いたように言った。
「メンバーは何人いるんだい?」
「そうね__お二人が入会すれば__三人」ハーマイオニーが言った。
「それじゃ、僕たちが『スピュー、反吐』なんて書いたバッジを着けて歩き回ると思ってるわけ?」ロンが言った。
「エス__ピー__イー__ダブリュー!」ハーマイオニーが熱くなった。
「ほんとは『魔法生物仲間の目に余る虐待を阻止し、その法的立場を変えるためのキャンペーン』とするつもりだったの。でも入りきらないでしょ。だから、そっちのほうは、我らが宣言文の見出しに持ってきたわ」
ハーマイオニーは羊皮紙の束を二人の目の前でヒラヒラ振った。
「私、図書館で徹底的に調べたわ。小人妖精の奴隷制度は、何世紀も前から続いてるの。これまでだれもなんにもしなかったなんて、信じられないわ」
「ハーマイオニー、耳を覚ませ」ロンが大きな声を出した。
「あいつらは、奴隷が、好き。奴隷でいるのが好きなんだ!」
「私たちの短期的目標は」
ロンより大きな声を出し、何も耳に入らなかったかのように、ハーマイオニーは読み上げた。
「屋敷しもべ妖精の正当な報酬と労働条件を確保することである。私たちの長期的目標は、以下の事項を含む。杖の使用禁止に関する法律改正。しもべ妖精代表を一人、『魔法生物規制管理部』に参加させること。なぜなら、彼らの代表権は愕然とするほど無視されているからである」
「それで、そんなにいろいろ、どうやってやるの?」ハリーが聞いた。
「まず、メンバー集めから始めるの」
ハーマイオニーは悦に入っていた。
「入会費、二シックルと考えたの__それでバッジを買う__その売り上げを資金に、ビラ撒きキャンペーンを展開するのよ。
ロン、あなた、財務担当__私、上の階に、募金用の空き缶を一個、置いてありますからね__ハリー、あなたは書記よ。だから私がいましゃべっていることを、全部記録しておくといいわ。第一回会合の記録として」
一瞬、間があいた。その間、ハーマイオニーは二人に向かって、ニッコリ微笑んでいた。
ハリーは、ハーマイオニーには呆れるやら、ロンの表情がおかしいやらで、ただじっと座ったままだった。沈黙を破ったのは、ロン、ではなく__ロンはどっちみち、呆気にとられて、一時的に口がきけない状態だった__トントンと軽く窓を叩く音だった。
いまやガランとした談話室のむこうに、ハリーは、月明かりに照らされて窓枠に止まっている、雪のように白いふくろうを見た。
「ヘドウィグ!」
ハリーは叫ぶように名を呼び、椅子から飛び出して、窓に駆けより、パッと開けた。
ヘドウィグは、中に入ると、部屋をスイーッと横切って飛び、テーブルに置かれたハリーの予言の上に舞い降りた。
「待ってたよ!」
ハリーは急いでヘドウィグのあとを追った。
「返事を持ってる」
ロンも興奮して、ヘドウィグの脚に結びつけられた汚い羊皮紙を指差した。
ハリーは急いで手紙を解き、座って読みはじめた。ヘドウィグはハタハタとその膝に乗り、やさしくホーと鳴いた。
「なんて書いてあるの?」ハーマイオニーが息を弾ませて聞いた。
とても短い手紙だった。
しかも、大急ぎで走り書きしたように見えた。ハリーはそれを読み上げた。
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