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第14章 許されざる呪文 2

「では__すぐ取りかかる。呪いだ。呪う力も形もさまざまだ。
さて、魔法省によれば、わしが教えるべきは反対呪文であり、そこまでで終りだ。違法とされる闇の呪文がどんなものか、六年生になるまでは生徒に見せてはいかんことになっている。おまえたちは幼すぎ、呪文を見ることさええられぬ、というわけだ。
しかし、ダンブルドア校長は、おまえたちの根性をもっと高く評価しておられる。校長はおまえたちが堪えられるとお考えだし、わしに言わせれば、戦うべき相手は早く知れば知るほどよい。見たこともないものから、どうやって身を守るというのだ?
いましも違法な呪いをかけようという魔法使いが、これからこういう呪文をかけますなどと、教えてはくれまい。面と向かって、やさしく礼儀正しく闇の呪文をかけてくれたりはせん。
おまえたちのほうに備えがなければならん。緊張し、警戒していなければならんのだ。
いいか、ミス・ブラウン、わしが話しているときは、そんな物はしまっておかねばならんのだ」
ラベンダー・ブラウンは跳び上がって、真っ赤になった。
完成した自分の天宮図てんきゅうずを、パーバティに机の下で見せていたところだったのだ。
ムーディの「魔法の目」は、自分の背後が見えるだけでなく、どうやら堅い木も透かして見ることができるらしい。

「さて……魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」
何人かが中途半端に手を挙げた。ロンもハーマイオニーも手を挙げていた。
ムーディはロンを指しながらも、「魔法の目」はまだラベンダーを見据えていた。

「えーと」ロンは自信なさげに答えた。
「パパが一つ話してくれたんですけど……たしか『服従ふくじゅうの呪文』とかなんとか?」
「ああ、そのとおりだ」
ムーディが誉めるように言った。
「おまえの父親てておやなら、たしかにそいつを知っているはずだ。一時期、魔法省をてこずらせたことがある。『服従の呪文』はな」
ムーディは左右不揃いの足で、グイと立ち上がり、机の引き出しを開け、ガラス瓶を取り出した。
黒い大グモが三匹、中でガサゴソ這い回っていた。ハリーは隣でロンがギクリと身を引くのを感じた__ロンはクモが大の苦手だ。

ムーディは瓶に手を入れ、クモを一匹つかみ出し、手の平に載せてみんなに見えるようにした。
それから杖をクモに向け、一言呟いた。
インペリオ!服従せよ!

クモは細い絹糸のような糸を垂らしながら、ムーディの手から飛び降り、空中ブランコのように前に後ろに揺れはじめた。
脚をピンと伸ばし、後ろ宙返りをし、糸を切って机の上に着地したと思うと、クモは円を描きながらクルリクルリと横とんぼ返りを始めた。
ムーディが杖をグイと上げると、クモは二本の後ろ脚で立ち上がり、どう見てもタップダンスとしか思えない動きを始めた。
みんなが笑った__ムーディを除いて、みんなが。

「おもしろいと思うのか?」ムーディは低く唸った。
「わしがおまえたちに同じことをしたら、喜ぶか?」
笑い声が一瞬にして消えた。
「完全な支配だ」
ムーディが低い声で言った。クモは丸くなってコロリコロリと転がりはじめた。
「わしはこいつを、思いのままにできる。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさすことも、だれかののどに飛び込ませることも……」
ロンが思わず身震いした。

「何年も前になるが、多くの魔法使いたちが、この『服従の呪文』に支配された」
ムーディの言っているのはヴォルデモートの全盛時代のことだと、ハリーにはわかった。
「だれが無理に動かされているのか、だれが自らの意思で動いているのか、それを見分けるのが、魔法省にとって一仕事ひとしごとだった。
『服従の呪文』と戦うことはできる。これからそのやり方を教えていこう。
しかし、これには個人の持つ真の力が必要で、だれにでもできるわけではない。できれば呪文をかけられぬようにするほうがよい。油断大敵!
ムーディの大声に、みんな飛び上がった。

ムーディはとんぼ返りをしているクモを摘み上げ、ガラス瓶に戻した。
「ほかの呪文を知っている者はいるか?何か禁じられた呪文を?」
ハーマイオニーの手が再び高く挙がった。
なんと、ネビルの手も挙がったので、ハリーはちょっと驚いた。
ネビルがいつも自分から進んで答えるのは、ネビルにとって他の科目よりダントツに得意な「薬草学」の授業だけだった。ネビル自身が、手を挙げた勇気に驚いているような顔だった。

「何かね?」
ムーディは「魔法の目」をぐるりと回してネビルを見据えた。
「一つだけ__『はりつけの呪文』」
ネビルは小さな、しかしはっきり聞こえる声で答えた。
ムーディはネビルをじっと見つめた。今度は両方の目で見ている。
「おまえはロングボトムという名だな?」
「魔法の目」をスーッと出席簿に走らせて、ムーディが聞いた。
ネビルはおずおずと頷いた。しかし、ムーディはそれ以上追及しなかった。
ムーディはクラス全員のほうに向き直り、ガラス瓶から二匹目のクモを取り出し、机の上に置いた。

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