第12章 守護霊 6
「ハリー、どこで手に入れたんだい?」
「僕にも乗せてくれる?」
「もう乗ってみた、ハリー?」
「レイブンクローに勝ち目はなくなったね。みんなクリーンスイープ7号に乗ってるんだもの!」
「ハリー、持つだけだから、いい?」
それから十分ほど、ファイアボルトは手から手へと渡され、あらゆる角度から誉めそやされた。
ようやくみんなが離れたとき、ハリーとロンはハーマイオニーの姿をしっかり捉えた。
たった一人、二人のそばに駆け寄らなかったハーマイオニーは、かじりつくようにして勉強を続け、二人と目を合わさないようにしていた。ハリーとロンがテーブルに近づくと、ハーマイオニーがやっと目を上げた。
「返してもらったんだ」ハリーがニッコリしてファイアボルトを持ち上げてみせた。
「言っただろう?ハーマイオニー。なーんも変なとこはなかったんだ!」ロンが言った。
「あら__あったかもしれないじゃない!」ハーマイオニーが言い返した。「つまり、少なくとも、安全だってことがいまはわかったわけでしょ!」
「うん、そうだね。僕、寝室の方に持っていくよ」ハリーが言った。
「僕が持ってゆく!」ロンはウズウズしていた。「スキャバーズにネズミ栄養ドリンクを飲ませないといけないし」
ロンはファイアボルトをまるでガラス細工のように捧げ持ち、男子寮への階段を上っていった。
「座ってもいい?」ハリーがハーマイオニーに聞いた。
「かまわないわよ」ハーマイオニーは椅子にうずたかく積まれた羊皮紙の山をどけた。
ハリーは散らかったテーブルを見回した。生乾きのインクが光っている「数占い」の長いレポートと、もっと長い「マグル学」の作文(「マグルはなぜ電気を必要とするか説明せよ」)、それに、ハーマイオニーがいま格闘中の「古代ルーン語」の翻訳。
「こんなにたくさん、いったいどうやってできるの?」ハリーが聞いた。
「え、ああ__そりゃ__一生懸命やるだけよ」ハーマイオニーが答えた。
そばで見ると、ハーマイオニーはルーピンと同じくらい疲れて見えた。
「いくつかやめればいいんじゃない?」ハーマイオニーがルーン語の辞書を探して、あちらこちら教科書を持ち上げているのを見ながら、ハリーが言った。
「そんなことできない!」ハーマイオニーはとんでもないとばかり目をむいた。
「『数占い』って大変そうだね」ハリーはひどく複雑そうな数表を摘み上げながら言った。
「あら、そんなことないわ。すばらしいのよ!」ハーマイオニーは熱を込めて言った。
「私の好きな科目なの。だって__」
「数占い」のどこがどうすばらしいのか、ハリーはついに知る機会を失った。
ちょうどそのとき、押し殺したような叫び声が男子寮の階段を伝って響いてきた。
談話室がいっせいにシーンとなり、石になったようにみんなの目が階段に釘づけになった。
慌ただしい足音が聞こえてきた。だんだん大きくなる__やがて、ロンが飛び込んできた。ベッドのシーツを引きずっている。
「見ろ!」ハーマイオニーのテーブルに荒々しく近づき、ロンが大声を出した。
「見ろよ!」ハーマイオニーの目の前でシーツを激しく振り、ロンが叫んだ。
「ロン、どうしたの__?」
「スキャバーズが!見ろ!スキャバーズが!」
ハーマイオニーはまったくわけがわからず、のけ反るようにロンから離れた。
ハリーはロンのつかんでいるシーツを見下ろした。
何か赤いものがついている。恐ろしいことに、それはまるで__
「血だ!」呆然として言葉もない部屋に、ロンの叫びだけが響いた。
「スキャバーズがいなくなった!それで、床に何があったかわかるか?」
「い、いいえ」ハーマイオニーの声は震えていた。
ロンはハーマイオニーの翻訳文の上に何かを投げつけた。
ハーマイオニーとハリーが覗き込んだ。
奇妙なとげとげした文字の上に、落ちていたのは、数本の長いオレンジ色の猫の毛だった。
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