第7章 穢れた血と幽かな声 7
ハグリッドがすぐに出てきた。不機嫌な顔だったが、客が誰だかわかった途端、パッと顔が輝いた。
「いつ来るんか、いつ来るんかと待っとったぞ__さあ入った、入った__実はロックハート先生がまーた来たんかと思ったんでな」
ハリーとハーマイオニーはロンを抱えて敷居をまたがせ、一部屋しかない小屋に入った。片隅には巨大なベッドがあり、反対の隅には楽しげに暖炉の火がはぜていた。ハリーはロンを椅子に座らせながら、手短に事情を説明したが、ハグリッドはロンのナメクジ問題にはまったく動じなかった。
「出てこんよりは出た方がええ」
ロンの前に大きな銅の洗面器をポンと置き、ハグリッドは朗らかに言った。
「ロン、みんな吐いっちまえ」
「止まるのを待つほか手がないと思うわ」
洗面器の上にかがみ込んでいるロンを心配そうに見ながらハーマイオニーが言った。
「あの呪いって、ただでさえ難しいのよ。まして杖が折れてたら…」
ハグリッドはいそいそとお茶の用意に飛び回った。ハグリッドの犬、ボアハウンドのファングはハリーを涎でべとべとにしていた。
「ねえ、ハグリッド、ロックハートはなんの用だったの?」
ファングの耳をカリカリ指で撫でながらハリーが聞いた。
「井戸の中から睡魔を追っ払う方法を俺に教えようとしてな」
唸るように答えながら、ハグリッドはしっかり洗い込まれたテーブルから、羽を半分むしりかけの雄鶏を取りのけて、ティーポットをそこに置いた。
「まるで俺が知らんとでもいうようにな。その上、自分が泣き妖怪とかなんとかを追っ払った話を、さんざぶち上げとった。やっこさんの言っとることが一つでもほんとだったら、俺はへそで茶を沸かしてみせるわい」
ホグワーツの先生を批判するなんて、まったくハグリッドらしくなかった。ハリーは驚いてハグリッドを見つめた。ハーマイオニーはいつもよりちょっと上ずった声で反論した。
「それって、少し偏見じゃないかしら。ダンブルドア先生は、あの先生が一番適任だとお考えになったわけだし__」
「ほかにはだーれもおらんかったんだ」
ハグリッドは糖蜜ヌガーを皿に入れて三人にすすめながら言った。ロンがその脇でゲボゲボと咳き込みながら洗面器に吐いていた。
「人っ子ひとりおらんかったんだ。闇の魔術の先生をするもんを探すのが難しくなっちょる。だーれも進んでそんなことをやろうとせん。な?みんなこりゃ縁起が悪いと思いはじめたな。ここんとこ、だーれも長続きしたもんはおらんしな。それで?やっこさん、誰に呪いをかけるつもりだったんかい?」
ハグリッドはロンの方を顎で指しながらハリーに聞いた。
「マルフォイがハーマイオニーのことをなんとかって呼んだんだ。ものすごくひどい悪口なんだと思う。だって、みんなかんかんだったもの」
「ほんとにひどい悪口さ」
テーブルの下からロンの汗だらけの青い顔がひょいっと現れ、しゃがれ声で言った。
「マルフォイのやつ、彼女のこと『穢れた血』って言ったんだよ、ハグリッド__」
ロンの顔がまたひょいとテーブルの下に消えた。次のナメクジの波が押し寄せてきたのだ。ハグリッドは大憤慨していた。
「そんなこと、ほんとうに言うたのか!」とハーマイオニーの方を見てうなり声をあげた。
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