第11章 炎の雷 3
「じゃ、オッケーだ。よかったじゃないか、ハグリッド!」
ロンがハグリッドの肩を叩いた。しかし、ハグリッドは泣き続け、でかい手を振って、ハリーに先を読むように促した。
手紙のあとに学校の理事の名前が連ねてあった。
「ウーン」ロンが言った。
「だけど、ハグリッド、バックビークは悪いヒッポグリフじゃないって、そう言ってたじゃないか。絶対、無罪放免__」
「おまえさんは『危険生物処理委員会』ちゅうとこの怪物どもを知らんのだ!」
ハグリッドは袖で目を拭いながら、喉を詰まらせた。
「連中はおもしれぇ生きもんを目の敵にしてきた!」
突然、小屋の隅から物音がして、ハリー、ロン、ハーマイオニーが弾かれたように振り返った。
ヒッポグリフのバックビークが隅の方に寝そべって、何かをバリバリ食いちぎっている。その血が床一面に滲み出していた。
「こいつを雪ン中に繋いで放っておけねえ」ハグリッドが喉を詰まらせた。
「たった一人で!クリスマスだっちゅうのに!」
ハリー、ロン、ハーマイオニーは互いに顔を見合わせた。
ハグリッドが「おもしろい生き物」と呼び、ほかの人が「恐ろしい怪物」と呼ぶものについて、三人はハグリッドと意見がぴったり合ったためしがない。しかし、バックビークがとくに危害を加えるとは思えない。事実、いつものハグリッドの基準から見て、この動物はむしろかわいらしい。
「ハグリッド、しっかりした強い弁護を打ち出さないといけないわ」
ハーマイオニーは腰かけてハグリッドの小山のような腕に手を置いて言った。
「バックビークが安全だって、あなたがきっと証明できるわ」
「そんでも、同じこった」ハグリッドがすすり上げた。
「やつら、処理屋の悪魔め、連中はルシウス・マルフォイの手の内だ!やつを怖がっとる!もし俺が裁判で負けたら、バックビークは__」
ハグリッドは喉をかき切るように、指をサッと動かした。それから一声大泣きし、前のめりになって両腕に顔を埋めた。
「ダンブルドアはどうなの、ハグリッド?」ハリーが聞いた。
「あの方は、俺のためにもう十分過ぎるほどやりなすった」ハグリッドは呻くように言った。
「手一杯でおいでなさる。吸魂鬼のやつらが城の中さ入らんようにしとくとか、シリウス・ブラックがうろうろとか__」
ロンとハーマイオニーは、急いでハリーを見た。
ブラックのことでほんとうのことを話してくれなかったと、ハリーがハグリッドを激しく責めはじめるだろうと思ったかのようだ。
しかし、ハリーはそこまではできなかった。ハグリッドがこんなに惨めで、こんなに打ち震えているのを見てしまったいまは、できはしない。
「ねえ、ハグリッド」ハリーが声をかけた。
「諦めちゃだめだ。ハーマイオニーの言う通りだよ。ちゃんとした弁護が必要なだけだ。僕たちを証人に呼んでいいよ__」
「私、ヒッポグリフいじめ事件について読んだことがあるわ」
ハーマイオニーが何か考えながら言った。
「たしか、ヒッポグリフは釈放されたっけ。探してあげる、ハグリッド。正確に何が起こったのか、調べるわ」
ハグリッドはますます声を張り上げてオンオン泣いた。ハリーとハーマイオニーは、どうにかしてよとロンの方を見た。
「アー__お茶でも入れようか?」ロンが言った。
ハリーが目を丸くしてロンを見た。
「誰か気が動転しているとき、ママはいつもそうするんだ」
ロンは肩をすくめて呟いた。
助けてあげる、とそれから何度も約束してもらい、目の前にポカポカのお茶のマグカップを出してもらって、やっとハグリッドは落ち着き、テーブルクロスぐらいの大きいハンカチでブーッと鼻をかみ、それから口をきいた。
「おまえさんたちの言う通りだ。ここで俺がボロボロになっちゃいられねえ。しゃんとせにゃ…」
ボアハウンド犬のファングがおずおずとテーブルの下から現われ、ハグリッドの膝に頭を載せた。
「このごろ俺はどうかしとった」
ハグリッドがファングの頭を片手で撫で、もう一方で自分の顔を拭きながら言った。
「バックビークが心配だし、だーれも俺の授業を好かんし__」
「みんな、とっても好きよ!」ハーマイオニーがすぐに嘘を言った。
「ウン、すごい授業だよ!」ロンもテーブルの下で、手をもじもじさせながら嘘を言った。
「あ__レタス食い虫は元気?」
「死んだ」ハグリッドが暗い表情をした。「レタスのやり過ぎだ」
「ああ、そんな!」そう言いながら、ロンの口元が笑っていた。
「それに、吸魂鬼のやつらだ。連中は俺をとことん落ち込ませる」
ハグリッドは急に身震いした。
「『三本の箒』に飲みにいくたんび、連中のそばを通らにゃなんねえ。アズカバンさ戻されちまったような気分になる__」
ハグリッドはふと黙りこくって、ゴクリと茶を飲んだ。
ハリー、ロン、ハーマイオニーは息をひそめてハグリッドを見つめた。
三人とも、ハグリッドが、短い期間だが、アズカバンに入れられたあのときのことを話すのを聞いたことがなかった。
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