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第19章 ヴォルデモート卿の召使い 5

小柄な男だ。ハリーやハーマイオニーの背丈とあまり変わらない。
まばらな色あせた髪はクシャクシャで、てっぺんに大きな禿げがあった。太った男が急激に体重を失ってしなびた感じだ。皮膚はまるでスキャバーズの体毛と同じように薄汚れ、尖った鼻や、ことさら小さい潤んだ目にはなんとなくネズミ臭さが漂っていた。
男はハアハアと浅く、速い息づかいで、周りの全員を見回した。男の目が素早くドアの方に走り、また元に戻ったのを、ハリーは目撃した。

「やあ、ピーター」
ネズミがニョキニョキと旧友に変身して身近に現れるのをちょっちゅう見慣れているかのような口ぶりで、ルーピンがほがらかに声をかけた。
「しばらくだったね」
「シ、シリウス……リ、リーマス……」
ペティグリューは声まで、キーキーとネズミ声だ。またしても、目がドアの方に素早く走った。
「友よ……なつかしの友よ……」
ブラックの杖腕が上がったが、ルーピンがその手首を押さえ、たしなめるような目でブラックを見た。それからまたペティグリューに向かって、さりげない軽い声で言った。
「ジェームズとリリーが死んだ夜、何が起こったのか、いまおしゃべりしていたんだがね、ピーター。君はあのベッドでキーキー喚いていたから、細かいところを聞き逃したかもしれないな__」
「リーマス」
ペティグリューが喘いだ。その不健康そうな顔から、ドッと汗が噴き出すのをハリーは見た。
「君はブラックの言うことを信じたりしないだろうね……あいつはわたしを殺そうとしたんだ、リーマス……」
「そう聞いていた」
ルーピンの声は一段と冷たかった。
「ピーター、二つ、三つ、すっきりさせておきたいことがあるんだが、君がもし__」
「こいつは、またわたしを殺しにやってきた!」
ペティグリューは突然ブラックを指差して金切り声をあげた。人差し指がなくなり、中指で指しているのをハリーは見た。
「こいつはジェームズとリリーを殺した。今度はわたしも殺そうとしてるんだ……リーマス、助けておくれ……」
暗い底知れない目でペティグリューを睨みつけたブラックの顔が、いままで以上に骸骨のような形相に見えた。

「少し話の整理がつくまでは、誰も君を殺しはしない」ルーピンが言った。
「整理?」
ペティグリューはまたキョロキョロとあたりを見回し、その目が板張りした窓を確かめ、一つしかないドアをもう一度確かめた。
「こいつがわたしを追ってくるとわかっていた!こいつがわたしを狙って戻ってくるとわかっていた!十二年も、わたしはこのときを待っていた!」
「シリウスがアズカバンを脱獄するとわかっていたと言うのか?」ルーピンは眉根をよせた。「いまだかつて脱獄した者は誰もいないのに?」
「こいつはわたしたちの誰もが夢の中でしかかなわないような闇の力を持っている!」
ペティグリューの甲高い声が続いた。
「それがなければ、どうやってあそこから出られる?おそらく『名前を言ってはいけないあの人』がこいつに何か術を教え込んだんだ!」
ブラックが笑い出した。
ゾッとするような、虚ろな笑いが部屋中に響いた。
「ヴォルデモートがわたしに術を?」
ペティグリューはブラックに鞭打たれたかのように身を縮めた。
「どうした?懐かしいご主人様の名前を聞いて怖気づいたか?」ブラックが言った。「無理もないな、ピーター。昔の仲間はおまえのことをあまり快く思っていないようだ。違うか?」
「なんのことやら__シリウス、君が何を言っているのやら__」
ペティグリューはますます荒い息をしながらモゴモゴ行った。
いまや汗だくで、顔がてかてかしている。

「おまえは十二年もの間、わたしから逃げていたのではない。ヴォルデモートの昔の仲間から逃げ隠れしていたのだ。アズカバンではいろいろ耳にしたぞ、ピーター……みんなおまえが死んだと思っている。さもなければ、おまえはみんなから落とし前をつけさせられたはずだ……わたしは囚人たちが寝言でいろいろ叫ぶのをずっと聞いてきた。どうやらみんな、裏切者がまた寝返って自分たちを裏切ったと思っているようだった。
ヴォルデモートはおまえの情報でポッターの家に行った……そこでヴォルデモートが破滅した。ところがヴォルデモートの仲間は一網打尽でアズカバンに入れられたわけではなかった。そうだな?まだその辺にたくさんいる。時を待っているのだ。悔い改めたふりをして……ピーター、その連中が、もしおまえがまだ生きていると風の便りに聞いたら__」
「なんのことやら……何を話しているやら……」
ペティグリューの声はますます甲高くなっていた。
袖で顔を拭い、ルーピンを見上げて、ペティグリューが言った。
「リーマス、君は信じないだろう__こんなバカげた__」
「はっきり言って、ピーター、なぜ無実の者が、十二年もネズミに身をやつして過ごしたいと思ったのかは、理解に苦しむ」
感情の起伏きふくを示さず、ルーピンが言った。
「無実だ。でも怖かった!」
ペティグリューがキーキー言った。
「ヴォルデモート支持者がわたしを追っているなら、それは、大物の一人をわたしがアズカバンに送ったからだ__スパイのシリウス・ブラックだ!」
ブラックの顔が歪んだ。
「よくもそんなことを」
ブラックは、突然、あの熊のように大きな犬に戻ったように唸った。

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