第10章 忍びの地図 5
まるで石の滑り台を滑るように、ハリーはかなりの距離を滑り降り、湿った冷たい地面に着地した。
立ち上がってあがりを見回したが、真っ暗だった。杖を掲げ、「ルーモス、光よ」と呪文を唱えて見ると、そこは天井の低い、かなり狭い土のトンネルの中だった。
ハリーは地図を掲げ、杖の先で軽く叩き、呪文を唱えた。
「いたずら完了!」
地図はすぐさま消えた。ハリーは丁寧にそれをたたみ、ローブの中にしまい込むと、興奮と不安で胸をドキドキさせながら歩き出した。
トンネルは曲がりくねっていた。どちらかといえば大きな兎の巣穴のようだった。
杖を先に突き出し、ときどき凸凹の道に躓きながら、ハリーは急いで歩いた。
果てしない時間だった。しかしハニーデュークスに行くんだという思いがハリーの支えになっていた。
一時間もたったかと思えるころ、上り坂になった。あえぎあえぎ、ハリーは足を速めた。
顔が火照り、足は冷えきっていた。
十分後、ハリーは石段の下に出た。
古びた石段が上へと伸び、先端は見えなかった。物音を立てないように注意しながら、ハリーは上りはじめた。
百段、二百段、もう何段上ったのかわからない。ハリーは足元に気をつけながら上っていった…すると、なんの前触れもなしに、ゴツンと頭が固いものにぶつかった。
天井は観音開きの撥ね戸になっているようだ。ハリーは頭のてっぺんをさすりながらそこにじっと立って、耳を澄ました。
上からはなんの物音も聞こえない。ハリーはゆっくりゆっくり撥ね戸を押し開け、外を覗き見た。
倉庫の中だった。木箱やケースがびっしり置いてある。
ハリーは撥ね戸から外に出て、戸を元通りに閉めた__戸は埃っぽい床にすっかりなじんで、そこにそんなものがあるとはとてもわからないぐらいだった。
ハリーは上に続く木の階段へとゆっくりと這っていった。今度ははっきりと声が聞こえる。チリンチリンとベルが鳴る音も、ドアが開いたり閉まったりする音までも聞こえる。
どうしたらいいのかと迷っていると、急にすぐ近くのドアが開く音が聞こえた。誰かが階段を下りてくるところらしい。
「『ナメクジゼリー』をもう一箱お願いね、あなた。あの子たちときたら、店中ごっそり持っていってくれるわ__」女の人の声だ。
男の脚が二本、階段を下りてきた。ハリーは大きな箱の陰に飛び込み、足音が通り過ぎるのを待った。男がむこう側の壁に立てかけてある箱をいくつか動かしている音が聞こえた。
このチャンスを逃したらあとはない。
ハリーはすばやく、しかも音を立てずに、隠れていた場所から抜け出し、階段を上った。振り返ると、でかい尻と箱の中に突っ込んだピカピカの禿頭が見えた。ハリーは階段の上のドアまで辿り着き、そこからスルリと出た。
ハニーデュークス店のカウンター裏だった__ハリーは頭を低くして横這いに進み、そして立ち上がった。
ハニーデュークスの店内は人でごった返していて、誰もハリーを見咎めなかった。ハリーは人混みの中をすり抜けながらあたりを見回した。
いまハリーがどこにいるかをダドリーが一目見たら、あの豚顔がどんな表情をするだろうと思うだけで笑いが込み上げてきた。
棚という棚には、噛んだらジュッと甘い汁の出そうなお菓子がずらりと並んでいた。ねっとりしたヌガー、ピンク色に輝くココナッツ・キャンディ、蜂蜜色のぷっくりしたトッフィー。手前の方にはきちんと並べられた何百種類ものチョコレート、百味ビーンズが入った大きな樽、ロンの話していた浮上炭酸キャンディ、フィフィ・フィズビーの樽。
別の壁いっぱいに「特殊効果」と書かれたお菓子の棚がある__「ドルーブル風船ガム」(部屋いっぱいにリンドウ色の風船が何個も広がって何日も頑固に膨れっぱなし)、ボロボロ崩れそうな、変てこりんな「歯みがき糸ようじミント」、豆粒のような「黒胡椒キャンディ」(「君の友達のために火を吹いて見せよう!」)、「ブルブル・マウス」(「歯がガチガチ、キーキー鳴るのが聞こえるぞ!」)、「ヒキガエル型ペパーミント」(「胃の中で本物そっくりに跳ぶぞ!」)、脆い「綿飴ペン」、「爆発ボンボン」__。
ハリーは六年生の群れている中をすり抜け、店の一番奥まったコーナーに看板がかかっているのを見つけた。
ロンとハーマイオニーが看板の下に立って、血の味がするペロペロ・キャンディが入ったお盆を品定めしていた。
ハリーはこっそり二人の背後に忍び寄った。
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