第7章 バグマンとクラウチ 1
ハリーはロンとのもつれを解いて立ち上がった。どうやら霧深い辺鄙な荒地のようなところに到着したらしい。
目の前に、疲れて不機嫌な顔の魔法使いが二人立っていた。
一人は大きな金時計を持ち、もう一人は太い羊皮紙の巻紙と羽根ペンを持っている。
二人ともマグルの格好をしてはいたが、素人丸出しだった。時計を持ったほうは、ツイードの背広に、太腿までのゴム引きを履いていたし、相方はキルトにポンチョの組み合わせだった。
「おはよう、バージル」
ウィーズリーおじさんが古ブーツを拾い上げ、キルトの魔法使いに渡しながら声をかけた。受け取ったほうは、自分の脇にある「使用済み移動キー」用の大きな箱にそれを投げ入れた。
ハリーが見ると、箱には古新聞やら、ジュースの空き缶、穴のあいたサッカーボールなどが入っていた。
「やあ、アーサー」
バージルは疲れた声で答えた。
「非番なのかい、え?まったく運がいいなあ……わたしらは夜通しここだよ……さ、早くそこをどいて。5時15分に黒い森から大集団が到着する。ちょっと待ってくれ。君のキャンプ場を探すから……ウィーズリー……ウィーズリーと……」
バージルは羊皮紙のリストを調べた。
「ここから400メートルほどあっち。歩いていって最初にでくわすキャンプ場だ。管理人はロバーツさんという名だ。ディゴリー……二番目のキャンプ場……ペインさんを探してくれ」
「ありがとう、バージル」
ウィーズリーおじさんは礼を言って、みんなについてくるよう合図した。
一行は荒涼とした荒地を歩きはじめた。霧でほとんど何も見えない。
ものの20分も歩くと、目の前にゆらりと、小さな石造りの小屋が見えてきた。その脇に門がある。そのむこうに、ゴーストのように白く、ぼんやりと、何百というテントが立ち並んでいるのが見えた。
テントは広々としたなだらかな傾斜地に立ち、地平線上に黒々と見える森へと続いていた。
そこでディゴリー父子にさよならを言い、ハリーたちは小屋の戸口へ近づいていった。
戸口に男が一人、テントのほうを眺めて立っていた。一目見て、ハリーは、この周辺数キロ四方で、本物のマグルはこの人一人だけだろうと察しがついた。
足音を聞きつけて男が振り返り、こっちを見た。
「おはよう!」
ウィーズリーおじさんが明るい声で言った。
「おはよう」マグルも挨拶した。
「ロバーツさんですか?」
「あいよ。そうだが」ロバーツさんが答えた。
「そんで、おめえさんは?」
「ウィーズリーです__テントを二張り、二、三日前に予約しましたよね?」
「あいよ」
ロバーツさんはドアに貼りつけたリストを見ながら答えた。
「おめえさんの場所はあそこの森の傍だ。一泊だけかね?」
「そうです」ウィーズリーおじさんが答えた。
「そんじゃ、いますぐ払ってくれるんだろうな?」ロバーツさんが言った。
「え__ああ__いいですとも__」
ウィーズリーおじさんは小屋からちょっと離れ、ハリーを手招きした。
「ハリー、手伝っておくれ」
ウィーズリーおじさんはポケットから丸めたマグルの札束を引っ張り出し、一枚一枚はがしはじめた。
「これは__っと__十かね?あ、なるほど、数字が小さく書いてあるようだ__すると、これは五かな?」
「二十ですよ」
ハリーは声を低めて訂正した。ロバーツさんが一言一句聞き漏らすまいとしているので、気が気ではなかった。
「ああ、そうか。……どうもよくわからんな。こんな紙切れ……」
「おめえさん、外国人かね?」
ちゃんとした金額を揃えて戻ってきたおじさんに、ロバーツさんが聞いた。
「外国人?」
おじさんはキョトンとしてオウム返しに言った。
「金勘定ができねえのは、おめえさんがはじめてじゃねえ」
ロバーツさんはウィーズリーおじさんはをジロジロ眺めながら言った。
「十分ほど前にも、二人ばっかり、車のホイールキャップぐれえのでっけえ金貨で払おうとしたな」
「ほう、そんなのがいたかね?」おじさんはドギマギしながら言った。
ロバーツさんは釣銭を出そうと、四角い空き缶をゴソゴソ探った。
「いままでこんなに混んだこたあねえ」
霧深いキャンプ場にまた目を向けながら、ロバーツさんが唐突に言った。
「何百ってぇ予約だ。客はだいたいフラッと現れるもんだが……」
「そうかね?」
ウィーズリーおじさんは釣銭をもらおうと手を差し出したが、ロバーツさんは釣りをよこさなかった。
「そうよ」
ロバーツさんは考え深げに言った。
「あっちこっちからだ。外国人だらけだ。それもただの外国人じゃねぇ。変わりもんよ。なあ?キルトにポンチョ着て歩き回ってるやつもいる」
「いけないのかね?」
ウィーズリーおじさんが心配そうに聞いた。
「お互いに知り合いみてえだし。おおがかりなパーティかなんか」
そのとき、どこからともなく、ニッカーズを履いた魔法使いが小屋の戸口の脇に現れた。
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