第14章 許されざる呪文 5
「ありゃ、いったいどうしたんだ?」
ネビルとムーディが角を曲がるのを見つめながら、ロンが言った。
「わからないわ」
ハーマイオニーは考えに耽っているようだった。
「だけど大した授業だったよな、な?」
大広間に向かいながら、ロンがハリーに話しかけた。
「フレッドとジョージの言うことは当たってた。ね?あのムーディって、ほんとに、決めてくれるよな?『アバダ ケダブラ』をやったときなんか、あのクモ、コロッと死んだ。あっという間におさらばだ__」
しかし、ハリーの顔を見て、ロンは急に黙り込んだ。
それからは一言もしゃべらず、大広間に着いてからやっと、トレローニー先生の予言の宿題は何時間もかかるから、今夜にも始めたほうがいいと思う、と口をきいた。
ハーマイオニーは夕食の間ずっと、ハリーとロンの会話には加わらず、激烈な勢いで掻き込み、また図書館へと去っていった。
ハリーとロンはグリフィンドール塔へと歩きだした。ハリーは、夕食の間ずっと思いつめていたことを、今度は自分から話題にした。「許されざる呪文」のことだ。
「僕らがあの呪文を見てしまったことが魔法省に知れたら、ムーディもダンブルドアもまずいことにならないかな?」
「太った婦人」の肖像画の近くまで来たとき、ハリーが言った。
「うん、たぶんな」ロンが言った。
「だけど、ダンブルドアって、いつも自分流のやり方でやってきただろ?それに、ムーディだって、もうとっくの昔から、まずいことになってたんだろうと思うよ。問答無用で、まず攻撃しちゃうんだから__ゴミバケツがいい例だ」
「ボールダーダッシュ」
「太った婦人」がパッと開いて、入口の穴が現われた。二人はそこをよじ登って、グリフィンドールの談話室に入った。
中は混み合っていて、うるさかった。
「じゃ、『占い学』のやつ、持ってこようか?」ハリーが言った。
「それっきゃねえか」ロンが呻くように言った。
教科書と星座表を取りに二人で寝室に行くと、ネビルがぽつねんとベッドに座って、何か読んでいた。
ネビルは、ムーディの授業が終わった直後よりは、ずっと落ち着いているようだったが、まだ本調子とはいえない。目を赤くしている。
「ネビル、大丈夫かい?」ハリーが聞いた。
「うん、もちろん」ネビルが答えた。
「大丈夫だよ。ありがとう。ムーディ先生が貸してくれた本を読んでるとこだ……」
ネビルは本を持ち上げて見せた。「地中海の水生魔法植物とその特性」とある。
「スプラウト先生がムーディ先生に、僕は『薬草学』がとってもよくできるって言ったらしいんだ」
ネビルはちょっぴり自慢そうな声で言った。ハリーはネビルがそんな調子で話すのを、滅多に聞いたことがなかった。
「ムーディ先生は、僕がこの本を気に入るだろうって思ったんだ」
スプラウト先生の言葉をネビルに伝えたのは、ネビルを元気づけるのにとても気のきいたやり方だったとハリーは思った。
ネビルは、何かに優れているなどと言われたことが、滅多にないからだ。
ルーピン先生だったらそうしただろうと思われるようなやり方だ。
ハリーとロンは「未来の霧を晴らす」の教科書を持って談話室に戻り、テーブルを見つけて座り、むこう一ヵ月間の自らの運勢を予言する宿題に取りかかった。
一時間後、作業はほとんど進んでいなかった。テーブルの上は計算の結果や記号を書きつけた羊皮紙の切れ端で散らかっていたが、ハリーの脳みそは、まるでトレローニー先生の暖炉から出る煙が詰まっているかのように、ぼうっと曇っていた。
「こんなもの、いったいどういう意味なのか、僕、まったく見当もつかない」
計算を羅列した長いリストをじっと見下ろしながら、ハリーが言った。
「あのさあ」
イライラして、指で髪を掻きむしってばかりいたので、ロンの髪は逆立っていた。
「こいつは、『まさかのときの占い学』に戻るしかないな」
「なんだい__でっち上げか?」
「そう」
そう言うなり、ロンは走り書きのメモの山をテーブルから払い除け、羽根ペンにたっぷりインクを浸し、書きはじめた。
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