第8章 絶命日パーティ 4
「ハリー!ハリー!うまくいったかい?」
「ほとんど首無しニック」が教室から滑るように現れた。その背後に金と黒の大きな飾り棚の残骸が見えた。ずいぶん高いところから落とされた様子だった。
「ピーブズを焚きつけて、フィルチの事務室の真上に墜落させたんですよ。そうすれば気をそらすことができるのではと…」ニックは真剣な表情だった。
「君だったの?」ハリーは感謝を込めて言った。
「あぁ、とってもうまくいったよ。処罰も受けなかった。ありがとう、ニック!」
二人で一緒に廊下を歩きながら、ハリーはニックが、パトリック卿の入会拒否の手紙を、まだ握りしめていることに気づいた。
「『首無し狩』のことだけど、僕になにかできることがあるといいのに」ハリーが言った。
「ほとんど首無しニック」が急に立ち止まったので、ハリーはもろにニックの中を通り抜けてしまった。通り抜けなきゃよかったのに、とハリーは思った。まるで氷のシャワーを浴びたようだった。
「それが、していただけることがあるのですよ」ニックは興奮気味だった。
「ハリー__もし、あつかましくなければ__でも、ダメでしょう。そんなことはお嫌でしょう…」
「なんなの?」
「えぇ、今度のハロウィーンが私の五百回目の絶命日に当たるのです」
「ほとんど首無しニック」は背筋を伸ばし、威厳たっぷりに言った。
「それは…」ハリーはいったい悲しむべきか、喜ぶべきか戸惑った。「そうなんですか」
「私は広めの地下牢を一つ使って、パーティを開こうと思います。国中から知人が集まります。君が出席してくださればどんなに光栄か。ミスター・ウィーズリーもミス・グレンジャーも、もちろん大歓迎です__でも、おそらく学校のパーティの方に行きたいと思われるでしょうね?」
ニックは緊張した様子でハリーを見た。
「そんなことないよ。僕、出席する…」ハリーはとっさに答えた。
「なんと!ハリー・ポッターが私の絶命日パーティに!」
そう言ったあと、ニックは興奮しながらも遠慮がちに聞いた。
「よろしければ、私がいかに恐ろしくものすごいか、君からパトリック卿に言ってくださることは、もしかして可能でしょうか?」
「だ、大丈夫だよ」ハリーが答えた。
「ほとんど首無しニック」はニッコリ微笑んだ。
ハリーがやっと着替えをすませ、談話室でロンやハーマイオニーにその話をすると、ハーマイオニーは夢中になった。
「絶命日パーティですって?生きてるうちに招かれた人って、そんなに多くないはずだわ__おもしろそう!」
「自分の死んだ日を祝うなんて、どういうわけ?」
ロンは魔法薬の宿題が半分しか終わっていないので機嫌が悪かった。
「死ぬほど落ち込みそうじゃないか…」
雨は相変わらず窓を打ち、外は墨のように暗くなっていた。しかし談話室は明るく、楽しさで満ちていた。暖炉の火がいくつもの座り心地のよいひじ掛け椅子を照らし、生徒たちはそれぞれに読書したり、おしゃべりしたり、宿題をしたりしていた。フレッドとジョージは、火トカゲに「フィリバスターの長々花火」を食べさせたら、どういうことになるか試していた。
フレッドは「魔法生物の世話」のクラスから、火の中に住む、燃えるようなオレンジ色の火トカゲを「助け出して」きたのだとういう。火トカゲは、好奇心満々の生徒たちに囲まれてテーブルの上で、今は静かにくすぶっていた。
ハリーはロンとハーマイオニーに、フィルチとクイックスペル・コースのことを話そうとした。その途端、火トカゲが急にヒュッと空中に飛び上がり、派手に火花を散らし、バンバン大きな音をたてながら、部屋中を猛烈な勢いでぐるぐる回りはじめた。パーシーは声をからしてフレッドとジョージを怒鳴りつけ、火トカゲの口からは滝のように橙色の星が流れ出してすばらしい眺めになり、トカゲが爆発音とともに暖炉の火の中に逃げ込み、なんだかんだで、フィルチのこともクイックスペルの封筒のことも、ハリーの頭から吹っ飛んでしまった。
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