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瀕死のママにかいしんのいちげき

わが家では麦茶を手作りしている。
「手作り」といっても麦茶パックをボトルに放り込んで水出しするだけだが、話題にあがったポテトサラダ論争と同じで、麦茶を大量消費する夏場はこれが地味に面倒くさい。そもそも、縦長のボトルに腕を突っ込んで洗うことそのものが面倒くさい。

風呂からあがり時計を見る。時刻は23時過ぎ。
寝間着を羽織り、濡れた髪をかきあげて、冷蔵庫を開け、麦茶を取り出した。……はずだった。

あのとき濡れた髪を触らなければ。
いや、順を追って冷静に考察すると、濡れた髪をかきあげたことで手が濡れていたということはただの引き金に過ぎず、1日育児に奮闘した私の体力が限りなく瀕死の状態に近かったことが最たる原因だろう。


プラスチックの麦茶ボトルは私の濡れた手から滑り落ち、キッチンの床でバキィと大きな音を立てて粉々に散らばった。続いて、目の前にじわぁと広がる2リットルの麦茶。2リットル。

自分が小さく悲鳴をあげた気がするが定かではない。プラスチックってこんなに粉々になるんだ、と感心するほど粉々だったし、2リットルの麦茶がぶちまけられたことでキッチンと言わずリビングまで夏の香りでいっぱいになった。

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驚いて駆けつけた猫が食器棚の引き出しに入ろうとして(なんで?)、床にレトルトカレーが散らばる二次災害のおまけつき。

一連の音に驚いて起きたのか、寝室から娘の泣き声がする。
夫が「どうしたの?」とキッチンを見に来た。夫の気配に気が付いて私は「えっ 娘は、」と振り返ると、泣きじゃくる娘は夫の腕の中に。
大人と一緒にベッドで寝ている娘、ここ最近は特に後追いが激しく、目を離すといとも簡単にベッドから落下しそうになってしまうのだ。
もしも夫がひとりでキッチンを見に来たとしたら、私は「娘がベッドから落ちないように寝室にもどって」と声を荒げた気さえする。

目の前に2リットルの麦茶が広がっていても、1日の終わりで体力がなかったとしても、母親の最優先順位は「子どもの安全」であるのだから、育児が親の脳みそに占める割合というのはスゴい。

“娘をひとりにすることなく いっしょに様子を見に来た”、そんな常識ある夫に感謝しつつ、私は私で目前の2リットルに立ち向かわないといけない絶望と向き合った。


noteに日記を書くつもりはあまりないのだが、よりによって今日は「ママにかいしんのいちげき!」というテーマで体力限界ワンオペ育児について書こうと思っていたところだった。

本来書こうとしていた「かいしんのいちげき」は全く別のものだったのだが、半年に一度あるかないかの「かいしんのいちげき」を自ら瀕死の自分にお見舞いしたのだから、なんというか、草も生えない。


夫が「これ使って」とバスタオルを持ってきてくれた。
今ふりかえると 妻を想う最良のアクションなのだが、このとき私の口をついて出た言葉は「やっぱ拭かないとダメだよね?」だった。人間疲れすぎると素で現実逃避することを身をもって知る。

大判のバスタオルで拭いたところで目の前の麦茶は全く減っていないような気さえした。結果、バスタオル1枚・フェイスタオル2枚・キッチンペーパー1ロールほどを使って拭きあげた。何度も言うが、体力限界の23時過ぎに。

皮肉なのは、お茶を拭きながら「喉渇いた、ちょっとお茶飲もう」と立ち上がり、「いや、お茶は目の前に…」と肩を落としたこと。お風呂あがりに水分補給したい渇いた身体に鞭打って、ひんやり冷えた麦茶を拭きとること20分。

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たっぷり麦茶を吸ったバスタオルを雑に絞って洗濯機に放り込んだ。八つ当たりする気力もなかった。

もしも麦茶をこぼしたのが夫だったら、体力限界の私はそれなりにまくしたてたような気がする。不幸中の幸いは、かいしんのいちげきを私に放ったのが自分自身だったことだろうか。

ちなみにひとしきりキッチンの棚を荒らした猫(バカなの?)は、床が乾くまでキッチンの少し高いところから清掃の一部始終を見守っていた。きみもやさしいね、知らんけど。

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明日はよい日になりますように。
(いや、今日もよい日だったのに終わり方が、終わり方が…!)

2020/08/05 こさい たろ


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写真は呼吸 <こさいたろ>
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